本記事は、Aginode Japan株式会社 (アジノドジャパン)へのインタビューおよび提供資料をもとに構成した技術解説記事です。
はじめに
Ethernet配線の最大距離は100m。
ネットワークに携わる方であれば、一度は耳にしたことのある数字ではないでしょうか。
しかし近年では、半導体工場やスマートビル、大規模施設、監視カメラシステムなどにおいて、この100mという制約を超えて機器を接続したいというニーズが急速に高まっています。
一方で、「100mを超えても本当に安定した通信品質を維持できるのか」「PoE給電も問題なく行えるのか」といった疑問を持つ方も少なくありません。
こうした課題に対し、新たな選択肢として注目されているのが Extended Reach Ethernet (拡張リーチイーサネット)です。
今回ご紹介するAginode Japan株式会社 の LANmark-6A EXTP は、単に通信距離を延ばすためのケーブルではありません。Cat.6Aの高い伝送性能やPoE++への対応、高いノイズ耐性、施工性を維持しながら、Ethernetアプリケーションとして100mを超えるLAN配線を実現するという設計思想に基づいて開発されたソリューションです。
本記事では、Aginode Japan 営業部 Sales Support Specialist 嶋崎 あい様へのインタビューとご提供いただいた技術資料をもとに、その開発背景や設計思想、独自のFXTP構造、AWG22を採用した理由、そして想定される用途まで、設計者の視点を交えながら詳しくご紹介します。
脚注
Extended Reach Ethernet とは、Ethernetの標準的な100mという配線距離を超えて通信を実現するためのソリューションを指す総称的な表現です。本記事では、その一例としてAginodeが提供する LANmark-6A EXTP をご紹介します。
海外では100mを超えるEthernet伝送を表す文脈で Long Reach Ethernet という表現が用いられることがあります。ただし、「Long Reach Ethernet(LRE)」は、Cisco Systemsが提供していたDSLベースの長距離Ethernet技術を指す場合もあります。また、Fluke NetworksのVersivリリースノート日本語版では、Extended Reach認証リミットを「拡張リーチ・リミット値」と表記しています。
なぜ100mを超えるLAN配線が求められているのか?
Ethernet配線では、チャネル長100mが標準的な設計基準となっています。
そのため、100mを超える距離が必要な場合には、中継スイッチを追加したり、光ファイバーへ切り替えたりすることが一般的な方法でした。
しかし近年では、こうした従来の考え方だけでは対応が難しい現場が増えています。
その代表例が、半導体工場やスマートビル、大規模施設、製造工場、そして高解像度監視カメラシステムです。
例えば半導体工場では、生産設備や製造ラインのレイアウトによって、通信機器から端末まで100mを超える距離になるケースがあります。また、スマートビルでは建物の大型化に伴い、設備監視やビル管理システムを接続するために長距離配線が必要になることがあります。
さらに近年は、4K・AI対応監視カメラの普及により、ネットワーク通信だけでなくPoEによる給電も同時に行うケースが急速に増えています。監視カメラを設置したい場所が100mを超える位置にある場合でも、中継機器をできるだけ設置せず、シンプルなネットワーク構成を維持したいという要求が高まっています。
こうした背景から、単に「100mを超えて通信できる」ことだけではなく、
- 安定したEthernet通信品質
- PoE++による高出力給電
- Cat.6Aレベルの高い伝送性能
- 将来の設備拡張にも対応できる配線インフラ
を同時に実現できる新しいソリューションが求められるようになりました。
では、このExtended Reach Ethernetとは、どのような考え方なのでしょうか。
Extended Reach Ethernetとは何か?
Extended Reach Ethernetとは、従来の100mというEthernet配線の制約を超え、より長距離でも安定した通信を実現するためのネットワークソリューションです。
ここで重要なのは、「単にケーブルを長くした」という考え方ではないという点です。
通信距離が長くなると、信号の減衰やノイズの影響が大きくなり、さらにPoEによる電圧降下も無視できなくなります。そのため、長距離化を実現するためには、ケーブル、コネクタ、接続構成を含めたシステム全体として設計することが重要になります。
今回のインタビューでも、Aginodeは「160m」という距離そのものではなく、Ethernetアプリケーションとして安定した通信品質を実現することを重視していることが分かりました。
つまり、LANmark-6A EXTPは、Cat.6A相当の高い伝送性能やPoE++への対応、高いノイズ耐性、施工性を維持しながら、100mを超えるLAN配線という現場の課題を解決するために開発されたソリューションと位置付けることができます。
この「距離を延ばすこと」ではなく、「通信品質を維持したまま長距離化を実現する」という設計思想こそが、Extended Reach Ethernetの大きな特徴と言えるでしょう。
では、Aginodeはどのような技術によって、この設計思想を実現したのでしょうか。
次章では、その中核となる独自のFXTP構造について詳しく見ていきます。
Aginode独自のFXTP構造とは?
LANmark-6A EXTPの技術的な特徴として、最初に挙げられるのがFXTP構造です。
一般的なシールドLANケーブルでは、各ペアを個別にシールドしたり、ケーブル全体をシールドしたりする構造が採用されています。一方、LANmark-6A EXTPでは、Aginode独自のFXTP構造により、高い伝送性能と施工性の両立を実現しています。
今回のインタビューでは、このFXTP構造について詳しくご説明いただきました。
特徴的なのは、アルミ箔が単なるシールド材ではなく、ケーブル内部の十字介在の役割も兼ねている点です。
図1をご覧いただくと、アルミ箔が十字介在も兼ねていることが分かります。

アルミ箔がシールド材と十字介在を兼ねることで、高い伝送性能と施工性を実現している。
この独自構造により、次のような特徴を実現しています。
- ペア間の結合(Alien Crosstalk)の抑制
- 高いシールド性能
- Cat.6Aに求められる高周波特性
- 優れた施工性
を同時に実現しています。
また、終端処理においても、従来のシールドケーブルのように複数のシールド材を個別に処理する必要が少なく、施工工程の簡素化にも配慮された設計となっています。
今回のインタビューでは、このFXTP構造がAginode独自の特許技術であることについてもご紹介いただきました。
この技術は、Aginodeの前身であるNexans時代から培われ、現在まで改良が重ねられてきた独自技術です。単なる特殊なケーブル構造ではなく、通信性能と施工性を両立するという設計思想が、この構造に反映されています。
つまり、FXTP構造は「160mを実現するためだけの特殊技術」ではなく、高い通信品質と施工性を維持するための基盤技術であり、その結果としてExtended Reach Ethernetという新しいネットワークソリューションを支える重要な役割を果たしています。
では、この設計思想を実現するために、AginodeはなぜAWG22という太い導体を採用したのでしょうか。
次章では、その設計思想を支えるAWG22採用の理由について詳しく見ていきます。
なぜAginodeはAWG22を採用したのか?
「長距離伝送を実現するのであれば、より太い導体を採用した方が有利ではないのでしょうか。」
今回のインタビューでは、この疑問について嶋崎様にお伺いしました。
嶋崎様によると、本製品の開発は、Aginodeが世界をリードする半導体企業向けの大型プロジェクトに参画したことが一つの契機となったそうです。
同企業では、グローバルに展開する複数の工場においてAginode製品が採用されており、日本国内の主要製造拠点(熊本)も代表的な導入事例として紹介されました。
嶋崎様によれば、同企業はAginodeにとって世界最大級の産業系ユーザーの一つとのことです。
開発当初は、同プロジェクト向けにAWG21仕様のカスタマイズ製品が提供されていました。
AWG21は導体径が太いため、導体抵抗を低減しやすく、長距離伝送やPoE給電性能を確保しやすいという利点があります。一方で、ケーブル外径が大きくなり、配線スペースを多く必要とします。
大規模な半導体工場では十分な配線スペースを確保できる場合もありますが、この技術をデータセンター、空港、物流倉庫、スマートビル、監視カメラシステムなど、より幅広い用途へ展開するためには、省スペース性も重要な課題となります。
そこでAginodeでは、FXTP構造をはじめとする独自技術を組み合わせることで、AWG22へ細径化しながらも、160m伝送に必要な通信性能を維持できる設計へと発展させました。
つまり、AWG22の採用は、単に導体を細くしたということではありません。
通信性能、PoE給電性能、省スペース性、施工性を総合的に考慮し、より幅広い用途に適用できるソリューションへ進化させるための設計判断だったと言えるでしょう。
この開発ストーリーから見えてくるのは、LANmark-6A EXTPが「160m対応ケーブル」を目指して開発された製品ではなく、実際の現場課題と向き合い、その解決を追求する中で生まれたソリューションであるという点です。
さらに、今回のインタビューで特に印象的だったのは、嶋崎様が一貫して「距離」ではなく「Ethernetアプリケーションの保証」という考え方を重視されていたことです。
「160mまで延ばせます」という説明ではなく、
「160mでもEthernetアプリケーションが期待どおり正常に動作することをメーカーとして保証する」
という表現を用いていました。
これは単に通信距離を保証する製品ではなく、監視カメラや無線LANアクセスポイントなどのEthernetアプリケーションが100mを超えた環境でも安定して動作することを保証するという設計思想です。
その本質は、単に通信距離を延ばすことではありません。
現場で求められる「通信品質」「PoE給電性能」「施工性」「省スペース性」を高いレベルで両立し、Ethernetアプリケーションとして長期間にわたり安定した通信品質を維持することを最優先に設計されている点にあります。
では、この160m対応は、どのような考え方で保証されているのでしょうか。
次章では、Cat.6A規格との関係や、Aginodeが提唱するEthernetアプリケーション保証という考え方について詳しく見ていきます。
Cat.6A規格を超えて、なぜ160mを保証できるのか?
ここまで読まれた方の中には、次のような疑問を持たれた方も多いのではないでしょうか。
「Cat.6Aの規格は100mではないのですか?」
実際、そのとおりです。
ISO/IEC 11801やANSI/TIA-568などの国際規格では、Cat.6Aチャネルの最大長は100mと規定されています。
では、LANmark-6A EXTPが160m対応をうたっていることは、この規格と矛盾しているのでしょうか。
今回のインタビューで、嶋崎様はこの点について非常に印象的なお話をされていました。
ポイントは、
「規格を保証する」という考え方と、「Ethernetアプリケーションが正常に動作することを保証する」という考え方は異なる
ということです。
Cat.6A規格は、100mチャネルにおける伝送性能を規定した国際標準です。
一方、Aginodeが提唱するExtended Reach Ethernetでは、より重要なのはEthernetアプリケーションが期待どおりに動作することであるという考え方を採っています。
嶋崎様のお話では、
「160mまで延ばせます」
という説明ではなく、
「160mでもEthernetアプリケーションが正常に動作することを保証する」
という表現を用いていました。
つまり、距離そのものを保証する製品ではなく、
Ethernetアプリケーションが100mを超えた環境でも安定して動作することを保証する製品
という考え方です。
そのため、LANmark-6A EXTPは、単に長距離通信を実現するためのケーブルではありません。
現場で求められる通信品質、PoE給電性能、施工性、省スペース性を総合的に考慮し、Ethernetアプリケーションとして長期間にわたり安定した通信品質を維持することを目的としたソリューションとして設計されています。
このように、Extended Reach Ethernetは「160mまで届くケーブル」を提供するという考え方ではありません。Ethernetアプリケーションが期待どおりに動作することをメーカーとして保証するという、新しい設計思想に基づいたソリューションなのです。
その考え方を最も分かりやすく表しているのが、Aginodeが公開している「Extended Application Distance Support」の一覧です。
図2をご覧ください。Ethernetアプリケーションの種類やPoE給電条件ごとに、メーカー保証の対象となる伝送距離が整理されています。

LANmark-6A EXTPでは、Ethernetアプリケーションの種類やPoE給電条件ごとに保証距離が設定されている。
距離そのものではなく、Ethernetアプリケーションごとに保証距離を設定するという設計思想を示している。
図2を見ると分かるように、最大160mの通信距離は、1G Ethernet+PoE++環境での適用例であり、保証距離は伝送速度やPoE給電条件など、実際のEthernetアプリケーションによって異なります。
10BASE-T、100BASE-T、1000BASE-T、さらにはPoE給電の有無など、実際に利用するEthernetアプリケーションごとに保証距離が設定されています。
だからこそ、LANmark-6A EXTPは「160m対応ケーブル」ではなく、「Ethernetアプリケーション保証を実現するソリューション」と位置付けられているのです。
では、このEthernetアプリケーション保証は、どのような考え方に基づいて実現されているのでしょうか。
次章では、このEthernetアプリケーション保証が、どのような仕組みで実現されているのかを詳しく見ていきます。
Ethernetアプリケーション保証は、どのように実現されるのか?
ここまでご紹介してきたように、Aginodeが提供するExtended Reach Ethernetは、
「160mまで届くケーブル」
ではなく、
「Ethernetアプリケーションが期待どおりに動作することを保証する」
という考え方に基づいたソリューションです。
では、その保証はどのように実現されるのでしょうか。
ポイントになるのは、ケーブル単体ではなく、システム全体として保証するという考え方です。
一般的なLANケーブルでは、国際規格で定められた100mチャネルに対して伝送性能を評価します。
一方、Aginodeが提供する**LANmark System Warranty(25年間システム保証)**では、ケーブル単体ではなく、
- ケーブル
- コネクタ
- 接続構成
- Ethernetアプリケーション
- PoE給電条件
まで含めたシステムとして評価を行い、その条件で期待どおりに動作することをメーカー保証の対象としています。
つまり、
「160mだから保証する」
のではなく、
「この構成、このEthernetアプリケーション、このPoE給電条件であれば正常に動作する」
という形で保証が行われます。
この考え方は、監視カメラ、無線LANアクセスポイント、スマートビルディング、物流倉庫、半導体工場など、実際のネットワーク運用を前提とした設計思想と言えるでしょう。
また、今回のインタビューでは、こうしたEthernetアプリケーション保証を、施工現場でもより分かりやすく確認できる仕組みづくりについても紹介がありました。
詳細については現在準備が進められている段階であるため、本記事では踏み込みませんが、施工品質の見える化につながる新しい取り組みとして期待されます。
Extended Reach Ethernetは、単なる「長距離LANケーブル」ではありません。
通信品質、PoE給電性能、施工性、省スペース性、そしてEthernetアプリケーション保証までを一体として提供する、新しいネットワークソリューションとして設計されています。
今回のインタビューを通して強く感じたのは、LANmark-6A EXTPの価値は、「160m」という数字そのものではなく、その背景にある設計思想にあるということでした。
Aginodeが目指しているのは、ケーブルのスペックを競うことではありません。
現場でEthernetアプリケーションが長期間にわたり安心して動作し続ける環境を提供すること。
そのために、ケーブル構造、導体サイズ、施工性、PoE給電性能、そしてシステム保証までを一体として設計しています。
つまり、Aginodeが提供しているのは単なる製品ではなく、現場の課題を解決するネットワークソリューションなのです。
このような考え方は、同社が単なるケーブルメーカーではなく、顧客のネットワーク運用を支えるソリューション・プロバイダーとして製品開発を行っていることを示しています。
Extended Reach Ethernetは、これからのスマートビル、工場、物流施設、空港、データセンターなどにおいて、新しいネットワーク設計の有力な選択肢の一つになっていく可能性を持っています。
関連ホワイトペーパー・技術資料
Extended Reach Ethernet の設計や導入を検討されている方は、Aginode が提供する以下の技術資料(英語版・無料)もぜひご活用ください。
■ Design Guidelines – LANmark-6A EXTP Cabling System
LANmark-6A EXTP を用いた配線設計の考え方や、2コネクタ/3コネクタ/4コネクタ構成、MPTL構成など、設計・施工時の推奨事項を詳しく解説した設計ガイドです。
■ Extended Distance Guarantee Copper
Extended Reach Ethernet における保証距離や、PoE給電時の最大チャネル長、適用条件をまとめた保証モジュールです。
取材協力
Aginode Japan株式会社
営業部
Sales Support Specialist 嶋崎 あい 様
本記事の作成にあたり、技術資料のご提供ならびにインタビューにご協力いただき、誠にありがとうございました。


