📖 本記事は、「MPO測定の再現性を高める基準値設定ガイド|TRC VerificationとReference条件管理」の関連解説記事です。なぜTIAやIECは、光ファイバー測定において管理すべき接続部を最小化する1ジャンパー基準を推奨しているのでしょうか。本記事では、その背景にある測定再現性(Repeatability)とReference条件管理の考え方を解説します。
翻訳・監修について
本記事は、Cabling Cert Tech のパートナーである Fluke Networks の記事「Why a 1-Jumper Reference is Recommended for Accurate Fiber Testing」を、Fluke Networks のご了承のもと、Cabling Cert Tech が翻訳・監修したものです。
原文の内容に加え、以下の観点から現場視点の補足解説を加えています。
・TRC(Test Reference Cord)
・Reference条件管理
・MPO測定の再現性管理
・AI時代の品質保証思想
といった観点から、現場視点の補足解説を加えています。
翻訳者注記
記事をお読みいただく前に、補足事項を記載します。
翻訳者注記①:製品名について
日本語ページ原文では「Nunc Max」と記載されていますが、正式名称は「CertiFiber™ Max OLTS」です。これは誤記と思われます。2026年6月現在、Fluke Networksが提供する正式な製品名称はCertiFiber™ Max OLTSです。本記事では、読者の混乱を避けるため、正式名称に統一して表記しています。
翻訳者注記②:uncertaintyの訳語について
原文ではuncertaintyという表現が使用されています。Fluke Networks日本語版では「不確実性」と訳されていますが、計測分野では測定の不確かさという表現も広く使用されています。本記事では文脈に応じて、不確実性、測定の不確かさの両方の表現を使用しています。
翻訳者注記③:Referenceの考え方について
原文ではReferenceを主に「基準値設定」として説明しています。しかし実際の現場では、単に基準値を設定することよりも、Reference条件そのものを管理することが重要になります。そのため本記事では、単なる「基準値設定」ではなく、Reference条件そのものを維持・管理するという考え方についても解説します。
Fluke Networks記事(翻訳)
Tier 1 の光ファイバー・テストでは、テスト基準コード(TRC)の損失を基準から除外するため、テスト機を0 dBに校正する必要があります。これは、ボウルをはかりに載せてゼロ点調整を行い、中身の正確な重量を測るのに似ています。ここでは TRC とは何か、そしてこの重要な手順において業界標準がなぜ 1 ジャンパー基準法を推奨しているのかを見ていきます。

テスト基準コード(TRC)とは何か?
業界標準で定義されている Tier 1 テストでは、ファイバー・リンクの総挿入損失を測定します。これは、一方の端に光源、他方の端にパワーメーターを配置した光損失テストセット(OLTS)を使用して、反対側の端から出る光を測定することによって行われます。損失測定には、リンクの最初と最後のコネクターの両方の損失を含める必要があります。これは、ケーブル配線プラントが最終的にどのように使用されるかを反映するためです。
単一のコネクターの損失を測定することは不可能であるため、コネクターの損失は嵌合ペアの損失として計算されます。そのため、リンク内の
最初と最後のコネクターの損失を測定するには、それらを同様の既知の品質のコネクターに嵌合する必要があります。ここで、テスト基準コード(TRC)が登場します。
TRC は、配線システムの認証テストのために明確に規定された用途で使用されます。基準グレードのケーブルとコネクタで構成されており、マルチモードで 0.1dB 以下、シングルモードで 0.2dB 未満の非常に低い損失を実現します。この低損失は不可欠です。損失が大きい TRC を使用すると、特に低損失接続のリンクで悲観的な結果が得られます。その結果、本来は問題のないリンクが不合格と判定され、不要で高額な再施工につながる可能性があります。
マルチモード・ファイバー・リンクをテストする場合、TRC もエンサークルド・フラックス (EF) にも準拠している必要があります。EFは、マルチモード・ファイバーにおける必要な光の入射条件を定義する指標で、光の入射状態を制御し、不要なモードを除去します。これにより、光源の違いによって生じるばらつきや測定の不確かさを最小限に抑えることができます。EF準拠のTRCは、EF準拠光源が生成する適切な励振条件を、被測定リンクとの接続点まで維持します。
適切な TRC メンテナンス
他の光ファイバー・コネクターと同様に、TRC コネクターの端面はほこりや破片で汚染される可能性があります。TRC の端面が汚れると信号損失や反射が発生し、不正確で過度に悲観的なテスト結果につながります。端面が汚れていると、テスト機器の端面や、テスト対象のファイバー・リンクも汚染される可能性があります。
テストの前に、リンク内の他のコネクターと同様に、TRC 端面を検査、クリーニング、再検査することが重要です。フルーク・ネットワークスは、このタスクに特化したツールを提供しています。
- FI-3000 FiberInspector™ Ultra カメラには、UPC と APC 8、12、および 24 芯 MPO 端面を検査するためのチップが標準で装備されています。アクセサリー・チップとして、16芯および 32 芯 MPO、超小型フォームファクタ(VSFF)の多芯 MMC コネクター、ならびに単芯ファイバー端面の検査用チップも用意されています。
- FI-7000 FiberInspector Pro は、1.25 mm および 2.5 mm のユニバーサル・チップに対応しており、UPC および APC の LC、FC、SC、ST デュプレックス・コネクタ、ならびに SN および MDC の VSFF コネクタの検査が可能です。
TRC は時間の経過とともに消耗するため、定期的に交換する必要があります。テスト前に TRC パフォーマンスを検証するのがベストプラクティスです。これにより、リンクが不合格となった場合でも、その原因が劣化した TRC でないことを確認できます。フルーク・ネットワークスは、288 回のテストごとに TRC を検証し、その結果を記録することを推奨します。これにより、TRC がいつ摩耗し、交換する必要があるかを決定するためのベンチマークが確立されます。フルーク・ネットワークスの Tier 1 認証テスターには、この検証プロセスを説明するウィザードがあります。
一部の顧客では、TRC で実施したテストの総回数や、最後に基準設定を行ってからの経過時間の管理が求められる場合があります。基準が設定されてからテストの準備が整うまでに数時間経過した場合は、基準をリセットすることをお勧めします。フルーク・ネットワークスの CertiFiber™ Max OLTS には基準設定後の経過時間や、特定のTRCセットで実施した試験回数を追跡できる内蔵タイマーおよびカウンター機能が搭載されています。これらの上限に近づくとテスターが警告を表示し、顧客要件への適合を確実にします。
適切な基準設定方法の選択
テスト時に、次の基準方法を選択する必要があります。1 ジャンパー、2 ジャンパー、または 3 ジャンパー法。ファイバー・リンク損失のテストには、可能な限り 1 ジャンパー基準法を使用する必要があります。これは、測定の不確かさが最小であるためです。
- 1 ジャンパー基準: これは、業界標準で推奨されるデフォルトの方法です。テスターの光源に接続された TRC の接続点から、遠端のパワーメーターに接続される点までを基準から除外します。リンク両端の接続損失を正しく考慮できるため、測定の不確かさが最も小さくなります。
- 2 ジャンパー基準: この方法では、2 本のジャンパー間の嵌合部を基準から除外します。その結果、最終的な測定値には片側の端末接続のみが含まれることになります。この方法は推奨されません。すべての基準方法の中で最も測定の不確かさが大きく、総損失の一部しか反映できません。リンクの片側または両側がプラグ終端されている場合にのみ使用すべきです。
- 3 ジャンパー基準: この方法では、2 組のコネクター・ペアを基準から除外し、最初と最後のコネクターの損失を補正するために代替コードを使用する、より複雑なプロセスが必要です。標準の 1 ジャンパー法を使用できない場合、例えば、テスターのインターフェースのコネクター・タイプとテスト対象リンクのコネクター・タイプが一致しない場合にのみ使用すべきです。

CS、SN、MDC などの新しい VSFF コネクターでは、OLTS に必要なインターフェース・ポートが不足している場合があります。このシナリオでテストするには、ハイブリッド・ブレークアウト・コードと、より困難で、精度の低い 3 ジャンパー基準を使用する必要があります。幸いなことに、フルーク・ネットワークスには、規格で推奨される 1 ジャンパー基準を使用したテストを提供する 2 つのソリューションがあります。CertiFiber Pro は、1 ジャンパー基準に対応する MDC VSFF アダプターを装備可能です。また、CertiFiber Max には、重要な 1 ジャンパー基準設定プロセスを段階的に案内する [基準値の設定] ウィザードが搭載されています。
この動画では、当社の Jim Davis が、CertiFiber Pro を使用して MDC VSFF コネクターで終端されたファイバー・リンクを 1 ジャンパー基準でテストする方法を実演しています。

基準設定の簡素化
フルーク・ネットワークスの Versiv™ 光ファイバー認証テスターを使用すると、基準値の設定が簡単です。Versiv テスターには、TRC に対応した色分けアニメーション付きの [基準値の設定] ウィザードが搭載されており、設定手順を分かりやすく案内します。CertiFiber Maxでは、プロセス開始時に必要なアダプター、テスト基準コード、検証コードの一覧も表示されます。
[基準値の設定] ウィザードは、メイン・フレームおよびリモート・ユニットの出力ポートに何を接続すべきかを正確に表示します。次に、入力ポートを使用してユニットを接続する手順を説明します。トーン音とアイコンで両ユニットが正しく接続されていることを確認できたら、[基準値の設定]をタップするだけで、数秒で基準設定が完了します。

フルーク・ネットワークスの [基準値の設定] ウィザードは、分かりやすい色分けアニメーションを用いて、基準設定の手順を段階的に案内します。
基準設定が完了すると、ウィザードは入力ポートの取り外し手順を案内します。ただし、出力ポートから TRC を絶対に取り外さないでください。取り外すと基準が無効となり、最初からやり直す必要があります。次に、ウィザードで TRC の確認手順を実行します。検証が完了すれば、試験を開始する準備が整います。ウィザードは基準値および TRC 検証結果を自動的に保存し、テスト結果レポートにも含めます。
学習を続ける
- ブログ: VSFFコネクター対応:テスト・検査・清掃の実践ガイド
- VSFF コネクターについて知っておくべきこと
- ホワイト・ペーパー:光ファイバー障害の1番の原因を排除、規格準拠認証試験と端面の清掃
- CSコネクターで終端された光ファイバー・ケーブルのテスト(Fluke Networks KB)
Cabling Cert Techによる解説
ここからは、Cabling Cert Techによる現場視点の補足解説です。
Fluke Networksの記事では、主に
・1ジャンパー基準
・テスト基準コード(TRC)
・基準値設定(Reference)
について解説されています。
しかし実際の認証試験の現場では、その先にあるReference条件管理やTRC Verification、測定の再現性管理が極めて重要になります。
特にMPO配線やAIデータセンターのような高密度光配線環境では、測定値そのものよりも、測定前提条件を安定して維持することが品質保証の鍵になります。
第1章 なぜ「接続回数が少ない」だけでは説明にならないのか
前回の記事「MPO測定の再現性を高める基準値設定ガイド|TRC VerificationとReference条件管理」では、Fiber HeightやCore Dip、TRC Verificationといった要素が、MPO測定の再現性にどのような影響を与えるのかを解説しました。
しかし、その前提となる
「なぜ業界標準は1ジャンパー基準法を推奨しているのか」
という疑問については詳しく触れていませんでした。
本章では、その出発点となる考え方として、なぜ業界標準が1ジャンパー基準法を推奨しているのか、そして接続回数と測定再現性がどのように関係しているのかを整理していきます。
Fluke Networksの記事では、1ジャンパー基準法(1-Jumper Reference)が推奨される理由として、「測定の不確かさ(uncertainty)が最も小さいこと」が挙げられています。
確かにこれは重要な理由です。
実際にTIAやIECの試験手順でも、可能な限り1ジャンパー基準法を使用することが推奨されています。
その理由として、多くの技術資料では、
・接続回数が少ない
・損失が少ない
・誤差が少ない
という説明が行われています。
しかし、ここで一つ疑問が生じます。
なぜ接続回数が増えると測定の不確かさが大きくなるのでしょうか。
もし光コネクター同士の接続が毎回完全に同じ状態で再現されるのであれば、接続回数が増えても測定結果に大きな違いは生じないはずです。
ところが実際の光ファイバー測定では、同じコネクター同士を接続しても、わずかな接触状態の違いによって測定結果が変化することがあります。
これは測定器の性能不足によるものではありません。
光コネクターの接続部そのものが、測定結果に影響を与える要因だからです。
そのため、接続箇所が増えるほど、測定値に影響を与える可能性のある要素も増えていきます。
業界標準が1ジャンパー基準法を推奨しているのは、単に接続回数を減らすためではありません。
接続によって発生する変動要因を最小化し、測定結果の再現性を高めるためです。
つまり、本質的に管理したいのは「接続回数」そのものではなく、「接続条件の変動」なのです。
次章では、接続箇所が増えると具体的にどのような変動要因が増加するのかを見ていきます。
第2章 接続回数が増えるとなぜ不利になるのか
光ファイバー測定において、接続箇所が増えるほど測定の不確かさが大きくなることは広く知られています。
しかし、その理由を単純に
「接続回数が多いから」
と説明するだけでは十分ではありません。
重要なのは、接続回数そのものではなく、接続によって発生する変動要因の数です。
例えば、同じLCコネクター同士を接続した場合でも、毎回まったく同じ状態で接触するとは限りません。
接続のたびに、
・コネクター端面の微細な汚れ
・フェルールの摩耗状態
・ファイバー芯の位置関係
・接触圧の違い
・着脱時の取り扱い差
など、さまざまな要素がわずかに変化します。
個々の変化は非常に小さいものであり、単独では問題にならないことも少なくありません。
しかし、接続箇所が増えると、それぞれの接続部で発生する微小な変動要因が積み重なっていきます。
例えば1ジャンパー基準法では、基準設定から測定までの間に管理すべき接続部は最小限に抑えられます。
一方で2ジャンパー法や3ジャンパー法では、基準設定時に除外される接続部が増えるため、その接続状態の違いが測定結果へ影響する可能性も高くなります。
前述の図1を見ると、1ジャンパー法では基準設定から除外される接続部が最も少なく、測定結果に影響を与える接続状態を管理しやすいことが分かります。
このため業界標準では、単に測定手順を簡素化するためではなく、測定結果に影響を与える変動要因をできるだけ減らすために、1ジャンパー基準法が推奨されています。
つまり、
接続回数が少ない
↓
変動要因が少ない
↓
測定結果が安定する
という考え方です。
では、実際に光コネクターの接続部ではどのような変動が発生しているのでしょうか。
次章では、光コネクターの接触条件という視点から、その技術的な背景を見ていきます。
第3章 本当に重要なのは「接触条件」の管理
前章では、接続箇所が増えるほど測定結果に影響を与える変動要因も増えることを説明しました。
では、その変動要因はどこから生まれるのでしょうか。
その答えの一つが、光コネクターの接触条件(Contact Condition)です。
多くの技術者は、光コネクターを接続すると、端面同士が完全に同じ状態で接触しているように考えがちです。
しかし実際には、同じコネクター同士を接続したとしても、毎回まったく同じ接触状態が再現されるわけではありません。
例えば、
・端面の微細な汚れ
・フェルールの摩耗状態
・接触圧の違い
・ファイバー突出量の差
・研磨形状のばらつき
などによって、接触条件はわずかに変化します。
通常のシングルファイバーコネクターでは、その影響は比較的小さいかもしれません。
しかし高速通信や高密度配線が求められる現在の光ネットワークでは、こうした微小な違いが測定結果に影響を与えることがあります。
特に近年のMPOコネクターでは、複数の光ファイバーが同時に接触するため、各ファイバーの端面状態や位置関係のわずかな違いが測定結果へ影響する可能性があります。
その代表例として知られているのが、Fiber Height(ファイバー突出量)やCore Dip(コアの凹み量)です。
これらは一見するとごくわずかな違いですが、接触状態や損失特性に影響を与える可能性があります。
つまり、測定結果を安定させるためには、測定器だけでなく、接続部の状態そのものを管理する必要があるのです。
業界標準が1ジャンパー基準法を推奨している理由も、単に接続回数を減らすためではありません。
接触条件が変化する可能性のある接続部を最小限に抑え、測定結果の再現性を高めるためです。
このように考えると、1ジャンパー基準法が管理しようとしているのは「損失値」そのものではなく、「接触条件の変動」であることが見えてきます。
次章では、この接触条件の変動が測定結果の再現性(Repeatability)にどのような影響を与えるのかを見ていきます。
第4章 Repeatability(再現性)という考え方
ここまで見てきたように、光コネクターの接続部にはさまざまな変動要因が存在します。
では、業界標準はなぜそれほどまでに接続条件の管理を重視しているのでしょうか。
その答えが、Repeatability(再現性)という考え方です。
Repeatabilityとは、同じ測定条件で同じ対象を繰り返し測定した際に、同じ結果が得られる度合いを意味します。
例えば、同じリンクを測定したにもかかわらず、
・測定するたびに値が変わる
・測定者によって結果が異なる
・基準設定のたびに結果が変動する
ような状態では、その測定結果を信頼することはできません。
認証試験において重要なのは、一度だけ正しい値が出ることではありません。
誰が測定しても、いつ測定しても、同じ条件であれば同じ結果が得られることです。
そのため業界標準では、測定値そのものだけではなく、測定結果の再現性を重視しています。
ここで考えてみてください。
もし接続箇所が増えれば、
・端面状態の違い
・接触圧の違い
・Fiber Heightの違い
・Core Dipの違い
といった変動要因も増加します。
すると、測定のたびに接触条件がわずかに変化し、測定結果にもばらつきが生じやすくなります。
一方で、1ジャンパー基準法では管理すべき接続部を最小限に抑えることができます。
その結果、
接続条件の変動が少ない
↓
測定結果のばらつきが少ない
↓
Repeatabilityが向上する
という効果が得られます。
つまり、TIAやIECが1ジャンパー基準法を推奨している理由は、単に損失測定の精度を高めるためだけではありません。
測定結果の再現性を確保し、認証試験の信頼性を高めるためなのです。
言い換えれば、規格が本当に守ろうとしているのは「損失値」そのものではなく、「その測定結果を信頼できる状態」です。
そして、その信頼性を支えるために重要になるのが、次章で解説する Reference条件管理 という考え方です。
第5章 Reference条件管理という考え方
ここまで見てきたように、1ジャンパー基準法が推奨される理由は、単に接続回数を減らすためではありません。
接触条件の変動を最小化し、測定結果の再現性(Repeatability)を高めるためです。
しかし、ここでさらに重要な視点があります。
それは、測定結果そのものよりも、測定結果を生み出す前提条件を管理するという考え方です。
例えば、認証試験で測定結果にばらつきが発生した場合、多くの人は測定器や被測定リンクに原因を求めます。
しかし実際には、
・TRCの状態が適切だったか
・端面は十分に清掃されていたか
・基準設定後に接続条件が変化していないか
・使用したReference条件は維持されていたか
といった要素が影響していることも少なくありません。
つまり、測定値だけを見ていても、本当の原因は分からない場合があるのです。
そこで重要になるのが Reference条件管理 という考え方です。
Reference条件管理とは、単に基準値を設定することではありません。
測定時に基準となるTRCや接続条件、端面状態などを適切に維持し、測定の前提条件を安定させる活動全体を意味します。
測定器は測定結果を表示することはできますが、Reference条件そのものを保証することはできません。
端面の汚れ、TRCの摩耗、接触条件の変化などが発生すれば、どれほど高性能な測定器を使用していても測定結果の再現性は低下します。
その意味で、認証試験における品質保証は「測定器の管理」だけではなく、「測定前提条件の管理」であるとも言えるでしょう。
この視点で考えると、1ジャンパー基準法は非常に合理的な方法であることが分かります。
接続箇所を減らすことで、
・管理すべき接触条件を減らす
・変動要因を減らす
・Repeatabilityを向上させる
ことができるからです。
つまり、
1ジャンパー基準法
↓
Repeatabilityの向上
↓
Reference条件管理の容易化
という関係が成り立ちます。
前回の記事「MPO測定の再現性を高める基準値設定ガイド|TRC VerificationとReference条件管理」では、このReference条件管理をさらに深掘りし、TRC VerificationやFiber Height、Core Dipが測定再現性へ与える影響について詳しく解説しました。
言い換えれば、本記事で解説してきた「なぜ1ジャンパー基準法が推奨されるのか」という疑問の先にある実践的な品質管理手法が、Reference条件管理なのです。
次章では、こうした考え方がMPO配線やVSFFコネクター、さらにはAIデータセンター時代の光配線品質保証において、なぜますます重要になっているのかを見ていきます。
第6章 MPO・VSFF・AIデータセンター時代にさらに重要になる理由
ここまで見てきたように、1ジャンパー基準法が推奨される背景には、
・接触条件の変動を減らすこと
・Repeatability(再現性)を高めること
・Reference条件を安定して維持すること
という考え方があります。
これらは決して新しい考え方ではありません。
しかし近年、この重要性はこれまで以上に高まっています。
その理由の一つが、光配線の高密度化です。
従来のLCコネクターを中心とした配線環境に加え、現在ではMPO-12、MPO-16、MPO-24といった多芯コネクターが広く利用されるようになりました。
さらに、AIデータセンターやクラウドデータセンターでは、SN、MDC、MMCといったVSFF(Very Small Form Factor)コネクターの採用も進んでいます。
こうした高密度配線環境では、1本の光ファイバーだけではなく、多数の光ファイバーが同時に接続されます。
そのため、端面状態や接触条件のわずかな違いが、従来以上に測定結果へ影響を与える可能性があります。
また、800Gや1.6Tといった高速伝送環境では、リンク損失に対する許容範囲もますます厳しくなっています。
このような環境では、
「測定器が正しく動作しているか」
だけでは十分ではありません。
むしろ、
「Reference条件が適切に維持されているか」
が品質保証の重要なポイントになります。
TRCの状態は適切か。
端面は清浄に保たれているか。
基準設定後の接続条件は維持されているか。
こうした前提条件を管理できなければ、測定値そのものの信頼性も失われてしまいます。
だからこそ現在の光配線試験では、
測定器の性能
↓
測定手順
↓
Reference条件管理
という順番ではなく、
Reference条件管理
↓
測定再現性の確保
↓
信頼できる測定結果
という考え方がますます重要になっているのです。
AI時代のデータセンターでは、光配線の高速化や高密度化が今後さらに進むと考えられています。
その中で求められるのは、単に測定を実施することではなく、測定結果を継続的に信頼できる状態を維持することです。
つまり、1ジャンパー基準法が推奨される理由は、単に測定手順が簡単だからでも、規格で決められているからでもありません。
接触条件の変動を最小化し、測定結果の再現性を確保し、長期的に信頼できる品質保証を実現するためなのです。
まとめ
光ファイバー測定において1ジャンパー基準法が推奨される背景には、単に接続回数を減らす以上の意味があります。その本質は、接続によって生じる変動要因を最小化し、測定結果の再現性(Repeatability)を確保することにあります。
光コネクターの接続部では、端面状態、接触圧、Fiber Height、Core Dipなどの要素によって、接触条件がわずかに変化することがあります。接続箇所が増えれば、こうした変動要因も増加し、測定結果のばらつきにつながる可能性があります。そのためTIAやIECでは、測定の不確かさを抑え、認証試験の信頼性を高める方法として、1ジャンパー基準法を推奨しています。
さらに重要なのは、測定値そのものではなく、測定結果を生み出す前提条件を管理するという考え方です。
TRCの状態、端面の清浄度、接続条件の維持といったReference条件管理は、Repeatabilityを支える重要な要素であり、MPO配線やVSFFコネクター、AIデータセンター時代の高密度光配線環境において、その重要性はますます高まっています。
つまり、1ジャンパー基準法は、接触条件の変動を最小化し、測定結果の再現性を確保することで、長期的に信頼できる品質保証を支える考え方といえます。
本記事では、なぜ1ジャンパー基準法が推奨されるのか、その背景にある Repeatability(再現性)と Reference 条件管理の考え方を解説しました。
近年は AIデータセンター向け高密度光配線の普及に伴い、MDC、SN、CS などのVSFF(Very Small Form Factor)コネクタの採用も進んでいます。しかし、コネクタ形状が進化しても、「被測定リンクと同じインターフェースで Reference を取得し、余分な接続を増やさない」という1ジャンパー基準法の考え方は変わりません。
関連テーマ(今後公開予定)
・TRC Verificationとは何か(公開予定)
・Fiber HeightとCore Dipが測定再現性に与える影響(公開予定)
関連企画
・AIデータセンター時代の光配線品質保証(企画中)
参考:Fluke Networks動画の解説
本記事で紹介したFluke Networksの動画では、MDCコネクタを使用した光リンクのTier 1試験手順が紹介されています。
動画の主題はMDCコネクタの測定方法ですが、測定手順に着目すると、本記事で解説した1ジャンパー基準の考え方が現在でも変わらず活用されていることが分かります。
動画内では、
・MDC専用TRC(Test Reference Cord)を使用すること
・Set Reference Wizardを用いてReferenceを設定すること
・1ジャンパー基準で測定を実施すること
が示されています。
つまり、コネクタ形状がLCからMDCへ変わっても、「被測定リンクと同じインターフェースでReferenceを取得し、余分な接続を増やさない」という基本原則は変わりません。
本動画は、MDCコネクタを例に、最新のVSFF環境でも1ジャンパー基準法が実践されていることを示しています。また、コネクタ形状が進化しても、Tier 1試験におけるReference設定の考え方は共通です。
この動画は、1ジャンパー基準法が最新のVSFF環境でも実践されている具体例として参考になります。
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