~ PoEのややこしい分類を整理!TypeとClassの役割を知れば設計ミスを防げる~

PoEスイッチのスペック表を見たとき、「PoE++対応、クラス8」という表記が「具体的に何を意味するのか」を正確に説明できますか?

多くのネットワーク技術者や配線設計者が混同しがちなのが、PoEの「Type(タイプ)」と「Class(クラス)」です。これらを曖昧に理解したまま設計を進めると、高価なPoEスイッチを導入したのに、接続したカメラが起動しない」「特定のアクセスポイントだけ頻繁に再起動する」といった、原因不明の電力不足トラブルに繋がりかねません。

この記事では、PoEにおけるTypeとClassの役割を明確にし、現場での設計ミスや手戻りを防ぐための実践的な知識を提供します。

1. Typeの役割:PSE(スイッチ)の「ハードウェア能力」を定義する

まず押さえるべき最も大きな分類が「Type」です。Typeは、給電側機器(PSE / PoEスイッチ)が物理的に供給できる最大の電力と、使用するLANケーブルの芯線ペア数を定めた、ハードウェアの能力指標です。

例えるなら、Typeは「自動車のエンジン排気量」のようなもの。そのエンジンが持つポテンシャル(最大出力)を示します。

現場でよく目にするIEEE規格と合わせて整理すると、以下のようになります。

  • Type 1 (IEEE 802.3af)
    • 通称: PoE
    • 最大供給電力: 15.4W
    • 給電方式: 2ペア給電
    • 主な用途: IP電話、固定IPカメラなど
  • Type 2 (IEEE 802.3at)
    • 通称: PoE+
    • 最大供給電力: 30W
    • 給電方式: 2ペア給電
    • 主な用途: パン・チルト・ズーム(PTZ)機能付きカメラ、無線アクセスポイントなど
  • Type 3 (IEEE 802.3bt)
    • 通称: PoE++ または 4PPoE
    • 最大供給電力: 60W
    • 給電方式: 4ペア給電
    • 主な用途: 高性能な無線アクセスポイント、小型ディスプレイなど
    • 補足: IEEE 802.3bt規格が策定される以前から、Cisco社のUPOE(Universal PoE)が4ペア給電で最大60Wを供給する独自実装として普及していました。これはType 3に相当する電力レベルです。
  • Type 4 (IEEE 802.3bt)
    • 通称: PoE++ または 4PPoE
    • 最大供給電力: 90W(規格上の最大は100W)
    • 給電方式: 4ペア給電
    • 主な用途: 高機能PTZカメラ、デジタルサイネージ、PoE照明など

ポイントは、Type 3から4ペア給電が必須になるという点です。これにより、より大きな電力を安定して供給できるようになりました。スイッチを選定する際は、まず「どのTypeに対応しているか」を確認することが、設計の第一歩となります。

2. Classの役割:PD(デバイス)の「電力要求レベル」を申告する

次に「Class」です。Classは、受電側機器(PD / IPカメラやアクセスポイント)が起動時にPSE(スイッチ)へ申告する、自身が必要とする最大消費電力のレベルを定義する識別子です。

例えるなら、Classは**「カーナビが事前に申告する目的地の燃費(要求ガソリン量)」**のようなものです。

なぜClassによる申告が必要なのか?

PSEは、PDが起動時にLLDP(Link Layer Discovery Protocol)などのプロトコルを通じて申告するClass情報を使って、ポートごとの要求電力を正確に把握します。これにより、スイッチ全体の電力バジェット(供給可能な総電力容量)から、実際に必要な電力だけを動的に割り当て、無駄のない効率的な電力管理を実現します。

もしClass分けがなければ、PSEは接続された機器すべてに、そのポートが出せる最大電力(例えばType 2なら30W)を確保しなくてはならず、リソースの無駄遣いになってしまいます。Classは、PoEネットワーク全体の電力を賢く使うための「自己申告制度」なのです。

特に重要なクラスとして、以下が挙げられます。

  • Class 0〜3: 主にType 1 (PoE) の範囲で使われます。
  • Class 4: Type 2 (PoE+) で要求される代表的なクラスです。
  • Class 5〜8: Type 3 / Type 4 (PoE++) で使われる高電力クラス。特にClass 8は、PD側で最大71.3Wの受電が保証される最高レベルのクラスです。

3. TypeとClassの関係:「能力」と「要求」

ここまでを整理すると、TypeとClassの関係は以下のようになります。この複雑な関係性をより深く理解するために、Fluke Networks社が提供する以下の表をご覧ください。

PoEのクラス、タイプ、および規格(出典:Fluke Networks White Paper『A Guide to Successful Installation of Power over Ethernet』より)

この表からわかるように、TypeはPSE(スイッチ)が供給できる最大電力と使用する給電ペア数を定義し、ClassはPD(デバイス)が要求する電力レベルを示します。特に、Type 3およびType 4はIEEE 802.3bt規格に準拠し、より多くの電力を供給するために4ペア給電を必須としています。

つまり、Typeはスイッチの「物理的な出力限界」を決め、Classはその限界の中で「PDがどれだけ電力を要求するか」を宣言するものです。

Class 8(最大71.3W要求)の高性能デバイスを接続するには、その要求を満たせる能力を持つType 4(最大90W供給)のPSEが必須、という関係になります。

4. 現場での互換性問題を解決する「Ethernet Alliance 認証プログラム」

TypeとClassの関係を理解しても、現場では「このスイッチと、このカメラは本当に問題なく接続できるのか?」という不安が残ります。市場にはIEEE規格に準拠しない独自のPoE実装も存在するため、互換性の問題は設計者を悩ませる大きな要因です。

この課題を解決するために、主要なPSE(給電側機器)メーカーが加盟するEthernet Allianceは、PoE認証プログラムを推進しています。

このプログラムは、PSEとPD(受電側機器)がIEEE 802.3規格に準拠し、相互接続性が確保されていることを認証するものです。認証された製品には、以下のようなラベルが表示されます。

Ethernet AllianceによるPSEおよびPDの認証マーク:受電機器 (左 ) と給電機器 (右 )

設計者や技術者は、機器選定の際にこの認証マークを確認することで、

  • PSEの供給能力(Type/Class)
  • PDの要求電力(Type/Class)

をひと目で、かつ確実に把握できます。PSEの認証レベルがPDの要求レベル以上であれば、その組み合わせでの動作が保証されるため、互換性のリスクを大幅に低減できます。

TypeとClassの知識と合わせて、この認証プログラムを活用することが、確実なPoEシステムを構築するための鍵となります。

5. まとめ:正しい知識で、確実なPoEシステムを構築する

TypeとClassの違いを理解することは、PoEスイッチの能力(Type)と接続デバイスの要求(Class)を正しく紐付け、設計ミスを防ぐ第一歩です。この知識は、PoEシステム全体の安定稼働と効率的な電力管理に不可欠です。

▶ 次のステップへ

PoEのTypeとClassを深く理解し、電力バジェット計算や機器選定の精度を高めたい方へ。PoE設計のベストプラクティスに関する詳細情報は、以下のホワイトペーパーでご確認いただけます。

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