
データセンターの光配線が高密度化するほど、コネクタには低損失な光学性能だけでなく、限られたスペースで確実に着脱できる操作性や、保守・運用のしやすさも求められます。多心光コネクタを選定する際には、単純な性能値の比較だけではなく、こうした複数の要素をどのように評価するかが重要になります。
R&Mは2026年8月18日、同社のMPO-QRコネクタとMTP®コネクタの比較試験結果を発表しました。直近数か月の試験結果を比較し、両者について「100% compatible and comparable」としています。その後R&Mから提供された技術資料「Technical Information – MPO vs MTP – a comparison」では、挿入損失(IL)や反射減衰量(RL)の実測データに加え、フェルール、使用材料、ガイドピンなどの違いも示されています。
本記事では、Cabling Cert TechのパートナーであるR&M Japan株式会社の了解のもと、R&Mが公開・提供する一次資料をもとに、Cabling Cert Techの視点から技術的なポイントを整理・解説します。 MPO-QRとMTP®の比較結果をどのように捉えるべきか、また光学性能だけでなく、MPO-QRのQuick Release、極性変更、フローティングフェルール、測定データへのアクセスといった特徴が、高密度光配線の設計・運用にどのような意味を持つのかを見ていきます。
高密度光配線でMPOコネクタの性能が重要になる理由
MPOやMTP®などの多心光コネクタは、データセンター、インターネットハブ、ブロードバンドネットワークなど、多数の光ファイバーを高密度に収容する環境で重要な接続ポイントとなります。R&MのMedia Releaseでは、最大24本の光ファイバーを16 mm²の端面内に並列配置し、マイクロメートル単位で正確に位置合わせする必要があると説明しています。
このような多心光コネクタでは、単に光信号が伝送できればよいわけではありません。特に重要になるのが、挿入損失(Insertion Loss)と反射減衰量(Return Loss)です。挿入損失は、コネクタなどの接続点を光信号が通過した際に生じる光パワーの損失です。一方、反射減衰量は接続点などで発生する反射光を評価するための指標です。
R&Mも今回の発表で、光ファイバーコネクタの選定・使用にあたっては、挿入損失と反射減衰量の測定を理解し、区別することがますます重要になっているとしています。
R&MがMPO-QRとMTP®を比較試験
R&Mは、MPO光ファイバーコネクタについて独自の厳しい試験ガイドラインを長年運用していると説明しています。今回公表された結果では、R&MのMPO-QRとMTP®について、直近数か月の試験結果を比較しています。その結果についてR&Mは、「100% compatible and comparable」と表現しています。
さらにR&Mは、高品質なMPOとMTP®コネクタについて、光学性能の観点から同等の値を達成できるとの見解を示しています。R&Mでは両方のコネクタを提供しており、MTP®にはUSCone製コネクタを採用する一方、MPO-QRはR&Mが自社で製造しています。
またR&MはMPO-QRをUltra-Low-Lossコネクタとして位置づけ、AIデータセンターなど、光ネットワークの高速化が進む環境での利用を想定しています。
MPO-QRとMTP®の比較結果を具体的に見る
R&Mが公開した「Technical Information – MPO vs MTP – a comparison」では、MPOとMTP®について、フェルール構造、使用材料、ガイドピン、光学性能などの観点から違いを整理しています。
まず前提として、MPOは標準化された多心光ファイバーコネクタです。一方、MTP®はUS Conecが開発したMPOコネクタで、独自の設計や特許技術が採用されています。そのため、MPOとMTP®を比較する際には、「MPO」という名称だけで性能を判断するのではなく、実際の製品に採用されている構造や材料、製造品質などを見ることが重要です。
R&Mの比較資料では、主な違いを次のように整理しています。
| 比較項目 | MPO | MTP® |
|---|---|---|
| フェルール | 標準化されたMTフェルール。フローティング構造の有無などはメーカーにより異なる | フローティングフェルールを採用 |
| 使用材料 | ガイドピンは金属。クランプなどにはメーカーによりプラスチックまたは金属を使用 | 金属部品を採用 |
| ガイドピン | ファセット形状 | 特許化された楕円形状 |
| 光学性能 | 製造品質や材料などによって異なる。高品質なMPOではMTP®と同等レベルの性能を実現可能 | 製造品質や材料などが性能に影響 |
この比較を理解するうえで重要なのは、「MPO」という規格名称だけでMPO-QRの性能を捉えないことです。 MPOは標準化されたコネクタである一方、実際の構造や材料、製造品質にはメーカーや製品による違いがあります。
R&Mは、高品質なMPOではMTP®と同等レベルの光学性能を実現できるとしており、MPO-QRについては、フローティングフェルールや金属製のピン/クリップなどを採用した高品質なMPOとして位置づけています。つまり、MPOとMTP®の違いを単純にコネクタ名称だけで比較するのではなく、実際の製品がどのような構造・材料・製造品質を備えているかまで含めて評価する必要があります。
実測データで見るMPO-QRとMTP®
R&Mの比較資料では、MTP® SM APCとMPO-QR SM APCについて、実際の測定データも公開されています。評価されているのは、1310 nmおよび1550 nmにおける挿入損失(IL:Insertion Loss)と反射減衰量(RL:Return Loss)です。
| 測定項目 | MTP® SM APC | MPO-QR SM APC |
|---|---|---|
| 1310 nm 平均IL | 0.114 dB | 0.096 dB |
| 1310 nm 平均RL | 71.231 dB | 70.561 dB |
| 1550 nm 平均IL | 0.087 dB | 0.090 dB |
| 1550 nm 平均RL | 71.256 dB | 70.338 dB |
| 最大IL | 0.300 dB | 0.300 dB |
| 測定数 | 3,864 | 2,400 |
測定結果を見ると、個々の項目にはわずかな差がありますが、MTP®とMPO-QRはいずれも低い挿入損失と高い反射減衰量を示しており、最大挿入損失はいずれも0.300 dBとなっています。R&Mは、これらの測定結果をもとに、高品質なMPOとMTP®は光学性能の面で同等レベルの値を達成できるとしています。
ただし、この結果はMPO-QRがMTP®より優れていることを示すものではありません。 測定数もMTP®が3,864、MPO-QRが2,400と異なっているため、各平均値のわずかな大小だけを比較して製品の優劣を判断することは適切ではありません。
今回のデータから読み取るべきポイントは、R&MのMPO-QRが、高品質なMTP®と比較した実測データにおいても、同等レベルの低損失な光学性能を示しているという点です。そのうえで、実際のコネクタ選定では光学性能だけでなく、機械構造、操作性、極性変更、配線密度、保守性など、それぞれの製品が持つ特徴を含めて評価する必要があります。
「MPO-QRとMTP®は同じ」という意味ではない
ここで注意したいのは、今回の比較結果が「MPO-QRとMTP®はまったく同じ製品である」ことを意味するものではないという点です。R&M自身も、MPOとMTP®にはそれぞれ異なる特徴があり、選定時にはハウジング材料、製造プロセス、極性変更方法、ガイドピンの設計と堅牢性などを考慮する必要があると説明しています。
さらに実際のネットワーク設計では、伝送距離、帯域幅、ファイバー密度、拡張性、嵌合回数、使用環境、コストなども判断材料になります。したがって今回の発表は、異なる特徴を持つコネクタについて、R&Mの比較試験では光学性能の面で同等レベルの結果が確認されたと捉えるのが適切でしょう。
MPO-QRの「QR」とは何か
MPO-QRを理解するうえで、もう一つ重要なのが製品名に含まれる「QR」です。QRはQuick Releaseを意味します。
R&Mの「Quick Release – The QR plug family by R&M」によると、高密度パッチパネルやアクティブ機器では、コネクタ同士の間隔が狭くなることで、隣接する接続に影響を与えずにパッチコードを着脱することが難しくなる場合があります。QRは、この高密度化に伴う操作性の問題に対応するためのR&Mのコネクタコンセプトです。
コネクタのブーツ部分を利用してロック/ロック解除を行い、push-pull操作によって着脱できる構造としています。これにより、コネクタが高密度に配置された環境でも、個々の接続へアクセスしやすくすることを狙っています。
Quick Releaseが高密度配線にもたらす意味
高密度化では、パネル上に何個のコネクタを配置できるかだけでなく、実際の運用時にそれらを操作できるかという視点も重要になります。R&MのQR Family資料では、QRプラグの特徴として、パネル上での高密度実装、シンプルなpush-pull操作、極性変更、奥行き方向の省スペース化、標準アダプタ/コネクタとの互換性を挙げています。
特に興味深いのは、R&Mが実装密度をパネル面だけでなく奥行き方向からも捉えていることです。一般的な高密度コネクタでは、操作用の突起などが隣接するコネクタと干渉すると、アダプタ間に一定のスペースを確保する必要があります。R&Mの資料では、QRコネクタは外形断面を大きくすることなく操作できるため、アダプタ間に余分なスペースを設けず、高密度に配置できることを図で説明しています。
つまりQuick Releaseは、単に「コネクタを抜きやすくする機構」ではなく、高密度実装と現場での操作性を両立させるための設計要素として捉えることができます。
QRはMPOだけの機構ではない
R&MのQuick Release(QR)は、MPOだけに限定されたものではありません。限られたスペースでもコネクタを容易に着脱できるようにする共通コンセプトとして、複数の光コネクタに展開されています。
R&MのQR Familyには、次のコネクタがラインアップされています。
- LCd Uniboot — 省スペース、短時間で極性変更が可能
- LC Simplex — シングルモードのパッチ/ピグテール用途
- LC Duplex — フェルールとスリーブを保護しながら着脱を簡素化
- MPO — 特別な工具なしで迅速な極性変更が可能
- SC — 高い安定性を持ち、厳しい用途にも適するQRコネクタ
MPO-QRは、このR&MのQRコンセプトをMPOコネクタに適用した製品です。 高密度化する光配線環境において、コネクタ間のスペースを抑えながら、現場での操作性や保守性を高めることを狙っています。

R&M QR Familyの極性変更(動画)
以下の動画では、R&MのLC-QRコネクタを使用した極性変更の操作例をご覧いただけます。MPO-QRそのものの操作動画ではありませんが、QR Familyに共通する、工具を使用せずに極性変更を行うという設計コンセプトを理解するうえで参考になります。


MPO-QRの主な特徴
今回のMedia Release、QR Family資料、および「MPO vs MTP – a comparison」から見ると、MPO-QRは光学性能だけでなく、高密度環境での操作性、機械構造、品質管理まで考慮したMPOコネクタとして位置づけられています。
Ultra-Low-Lossの光学性能
R&MはMPO-QRをUltra-Low-Lossコネクタとして位置づけています。前述の実測データでも、高品質なMTP®と同等レベルの低損失な光学性能が示されています。高速・高密度な光ネットワークでは、複数の接続点を含むリンクが構成されることがあるため、各接続点で発生する光損失を抑えることは、リンク全体の光損失設計に関係する重要な要素です。
Quick Releaseによる操作性
MPO-QRでは、R&MのQRコンセプトによるQuick Release機構が採用されています。高密度パッチパネルでは、コネクタ周辺の作業スペースが限られます。ブーツ部分を利用したpush-pull操作は、こうした環境での着脱を考慮したものです。
極性変更への対応
QR Family資料では、QRプラグの特徴として、ファイバーをねじるリスクを抑えながら極性を変更できることが挙げられています。MPOを使用する光配線では極性管理も設計・運用上の重要な要素となるため、現場での変更作業を考慮した構造も注目すべきポイントです。
フローティング構造のMPOフェルール
R&MのMedia Releaseでは、MPO-QRの特徴の一つとして、MPOフェルールをフローティングマウントする構造が挙げられています。さらに「MPO vs MTP – a comparison」でも、MTP®がフローティングフェルールを採用している一方、高品質なMPOでは同様の構造を採用でき、MPO-QRもその一例として示されています。
フローティングフェルールは、コネクタハウジングに外力が加わった場合でも、嵌合したフェルール同士の物理的な接触を維持しやすくするための構造です。ただし、今回確認したR&M資料では、MPO-QR固有のフローティング構造や詳細な動作原理までは示されていないため、本記事では確認できる範囲の説明にとどめます。
MDoDによる測定データへのアクセス
MPO-QRでは、R&MのMDoD(Measurement Data on Demand)にも対応しています。
MDoDは、製品に付けられたData Matrixコードを読み取るか、パッチコードに記載されたシリアル/作業指図番号をR&MのWebページに入力することで、対象製品の測定プロトコルを確認できるサービスです。R&Mによると、Grade AおよびBのコネクタでは個々のコネクタの測定値、Grade CおよびAm、Bmでは測定されたバッチの値を確認できます。これにより、コネクタの仕様値だけでなく、製品に紐づいた品質管理情報へ必要なときにアクセスできることがMDoDの特徴です。

MPO-QRとMTP®をどう選ぶか
今回のR&Mの発表は、MPO-QRとMTP®のどちらが優れているかを決めるものではありません。R&MはMPOについて、コスト、汎用性、データセンター用途への適性などを特徴として説明しています。一方、MTP®については、高い信頼性、ガイドピンの構造、耐久性などを特徴として挙げています。
実際の選定では、光学性能だけでなく、配線密度、運用方法、嵌合回数、使用環境、拡張計画、コストなどを含めて判断する必要があります。今回の比較試験から読み取るべきなのは「どちらが優れているか」ではなく、MPO-QRも高性能な多心光コネクタの選択肢として評価できるという点です。
そのうえで、MPO-QRにはQuick Releaseによる高密度環境での操作性など、R&Mの設計上の特徴があります。光学性能と運用性の双方を見ながら、使用する環境に適したコネクタを選択することが重要です。
まとめ
データセンターの光配線が高速化・高密度化するなか、多心光コネクタには低損失な光学性能だけでなく、高密度実装、保守時の操作性、極性管理など複数の要素が求められます。
R&MはMPO-QRとMTP®の比較試験から、両者について「100% compatible and comparable」と報告しています。一方、これは両者が同一の製品であるという意味ではなく、それぞれの特徴を理解したうえで選択する必要があります。
MPO-QRの特徴の一つが、R&MのQuick Releaseコンセプトです。高密度環境でのpush-pull操作や省スペース化を考慮し、QR FamilyとしてMPOだけでなくLCやSCなどにも展開されています。
したがってMPO-QRを評価する際には、MTP®との光学性能比較だけを見るのではなく、高密度光配線における実装性・操作性まで含めて評価することが重要です。
参考資料
本記事は、R&Mが公開・提供している以下の資料をもとに作成しています。
▼ Multiple Fiber Connectors for Fiber Optic Networks Retested
R&Mが2026年8月18日に発表したメディアリリースです。MPO-QRとMTP®の比較試験結果や、MPO-QRの光学性能、Quick Release、MDoDなどの特徴が紹介されています。
▼ Quick Release – The QR plug family by R&M
R&MのQuick Release(QR)コネクタファミリーについて、高密度実装における課題、push-pull操作、極性変更、省スペース性などの特徴と、MPOを含むQR Familyのラインアップを紹介した資料です。
▼ Technical Information – MPO vs MTP – a comparison
R&Mが2026年6月に作成したMPOとMTP®の比較技術資料です。フェルール構造、使用材料、ガイドピンなどの違いに加え、MTP® SM APCとMPO-QR SM APCの挿入損失(IL)・反射減衰量(RL)の実測データが示されています。
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