
本記事では、Cabling Cert Techのパートナープログラムにご協力いただいているR&Mのホワイトペーパー「Beyond 100 Meters」をもとに、Generic Cablingを基本とする考え方と、100mを超えるLAN配線を検討する際の設計上のポイントをご紹介します。
100mを超えるLAN配線をどう考えるべきか
LAN配線では、「最大100m」という距離が広く知られています。一方、ネットワークにつながる機器は、オフィスのPCや電話だけではなく、無線LANアクセスポイント、監視カメラ、アクセス制御、センサー、ビル設備などへ広がり、従来の配線設計では100m以内に収めることが難しいケースも現れています。
こうした背景から、100mを超えてEthernet通信やPoE給電を行うExtended Reachへの関心が高まっています。しかし、ここで重要なのは「100mを超えて通信できるか」だけではありません。なぜLAN配線では100mが基本とされてきたのか、そして100mを超えることで何を考慮する必要があるのかを理解したうえで、配線方式を選択する必要があります。
Generic Cablingとは
この考え方を理解するうえで重要になるのが、Generic Cabling(汎用情報配線)です。本記事でいうGeneric Cablingとは、ISO/IEC 11801シリーズやANSI/TIA-568シリーズなどの配線規格を基盤として構築される、構内の汎用的な情報配線システムを指します。
Generic Cablingの重要な特徴は、特定のネットワーク機器や単一のアプリケーションだけを前提として配線するのではなく、さまざまな通信サービスや機器を共通の配線インフラで支えられることです。マルチベンダー環境での相互運用性に加え、機器の交換や用途変更、将来のネットワーク更新にも対応しやすいことが、長期間使用される構内配線では重要な価値になります。
したがって、Generic Cablingは単に「規格に適合したLANケーブル」を意味するものではありません。建物や構内で長期間利用する、アプリケーションに依存しない共通の配線インフラを構築するという考え方を含んでいます。
R&Mのホワイトペーパー「Beyond 100 Meters」も、このGeneric Cablingを基本とする考え方から出発しています。100mを超えるメタル配線そのものを否定するのではなく、Generic Cablingが持つ相互運用性や将来性、管理性といった価値を維持しながら、100mを超える必要がある場合には、用途や通信速度、PoE、温度、ケーブル構造、将来の変更などを考慮して設計判断するという立場です。
では、100mを超えるLAN配線が必要になったとき、どのような選択肢があり、Extended Reachはどのような条件で採用すべきなのでしょうか。
本記事では、R&M「Beyond 100 Meters」をもとに、Generic Cablingを基本としながら100mを超える配線をどのように考え、設計判断すべきなのかを整理します。
なぜLAN配線は100mが基本なのか
Ethernetの構内配線では、一般にチャネル長100mが基本的な設計条件として知られています。この100mは、単にケーブルを敷設できる物理的な距離を示したものではなく、規定された伝送性能を満たす配線システムと、対応するEthernetアプリケーションを組み合わせて利用するための、基本的な設計条件の一つとして考える必要があります。
R&Mの「Beyond 100 Meters」では、ISO/IEC 11801シリーズやANSI/TIA-568シリーズなどのGeneric Cabling規格と、IEEE 802.3などのEthernetアプリケーション規格を区別して捉えています。Generic Cabling規格が配線の構造や性能を定める一方、Ethernet側ではPHYごとに使用する周波数帯域や信号方式、許容される伝送条件などが定められており、実際のネットワークは両者の組み合わせによって成立します。
100mは「ケーブル単体」の限界ではない
ここで注意したいのは、100mをケーブル単体の絶対的な伝送限界と考えないことです。実際にどこまで通信できるかは、ケーブルの構造や挿入損失、使用するPHY、接続点、周囲温度、PoEによる給電条件などによって変わります。
そのため、条件によっては100mを超えて通信できる場合があります。しかし、「通信できた」ということと、Generic Cablingとして幅広い機器や将来のアプリケーションまで含めて利用できることは同じではありません。100mを超える配線を考えるときには、この違いを明確にしておく必要があります。
Generic Cablingが守っているのは距離だけではない
Generic Cablingを100mという数字だけで捉えると、より長距離まで通信できるケーブルがあれば100mという基準は不要なのではないか、という考え方にもなり得ます。しかし、R&Mが重視しているのは、距離そのものよりも、Generic Cablingによって得られる相互運用性、機器選択の自由度、将来のネットワーク変更への対応、試験や保証の予測可能性、保守・管理のしやすさです。
特定の機器とケーブルの組み合わせで100mを超える通信が成立しても、その配線が将来別の機器や、より高速なEthernetへ変更されたときにも同じ距離で利用できるとは限りません。100mを超えるという判断は、距離を延ばすことと引き換えに、Generic Cablingが持つ汎用性の一部を用途固有の条件へ置き換える可能性があるということです。
この点を理解すると、R&Mが100mを超える配線を一律に否定するのではなく、必要な場合には、「engineered exception」、すなわち用途や技術条件を明確にした個別設計として扱うという考え方につながっていきます。
なぜ100mを超えるLAN配線が求められているのか
従来の企業LANでは、通信機器やユーザー端末を100m以内で接続できるように、フロアや建物内へ通信室や配線設備を配置することが一般的でした。しかし、Ethernetに接続される機器とその設置場所が広がったことで、従来と同じ配線構成では100m以内に収めにくいケースが増えています。
R&Mの「Beyond 100 Meters」では、その背景として、監視カメラ、アクセス制御、センサー、倉庫システムなど、建物や施設の広い範囲に分散して配置される機器への接続需要を挙げています。こうした機器では、最寄りの通信室から設置場所までの距離が100mを超える場合があり、データ通信だけでなくPoEによる給電も同時に求められることがあります。
Ethernetが使われる場所そのものが広がっている
100mを超える配線への要求が生まれている背景には、LANケーブルの性能向上だけでなく、Ethernetが利用される場所そのものの変化があります。オフィス内のPCを接続するネットワークから、建物設備、セキュリティ、無線LAN、IoTなどへEthernetの利用範囲が広がることで、従来の通信室を起点とした100mの配線モデルでは効率的に接続しにくい場所が現れてきました。
特に大規模な倉庫、工場、駐車場、キャンパス、広い建物などでは、少数の遠隔機器を接続するためだけに新たな通信室や中間設備を設けることが、必ずしも合理的とは限りません。こうしたケースでは、既存の通信室からメタル配線を延長できれば、設備構成を簡素化できる可能性があります。

スマートビルディングや物流施設などでは、建物内のオフィスLANだけでなく、倉庫、屋外設備、建物周辺部などにもIP接続機器が広がっています。
出典:R&M「Beyond 100 Meters」
Extended Reachが注目される理由
このような要求に対する一つの方法が、100mを超えて4ペア平衡メタル配線を使用するExtended Reachです。中間にアクティブ機器を追加せず、既存のEthernetやPoEの仕組みを利用しながら遠方の機器まで接続できれば、通信室や中間設備の追加を避け、それらに必要となる電源、空調、保守などの負担を削減できる可能性があります。
一方で、距離を延ばせることだけを理由にExtended Reachを選択すると、前章で説明したGeneric Cablingの汎用性や将来性との間にトレードオフが生じる場合があります。そのためR&Mは、100mを超える要求があること自体を否定するのではなく、「なぜ100mを超える必要があるのか」を明確にしたうえで、最も適した配線方式を選ぶことが重要だとしています。
そして、100mを超えるための方法はExtended Reach Copperだけではありません。通信室やゾーン配線の配置を見直す方法、光ファイバーを利用する方法、光とメタル線を組み合わせる方法、Single Pair Ethernet(SPE)を利用する方法など、用途によって複数の選択肢があります。
100mを超えること自体を目的にするのではなく、その機器に必要な通信速度、PoE、距離、設置環境、将来の変更まで含めて、どの方法が適しているのかを判断する必要があります。
100mを超えると何が変わるのか
100mを超えるメタル配線を検討するとき、単純に「より長いケーブルを使えばよい」というわけではありません。距離が長くなるにつれて信号の減衰が大きくなり、使用するEthernet PHY、ケーブルの構造や性能、接続点、周囲温度、PoEによる給電条件などが、通信可能な距離を左右する重要な設計条件になります。
R&Mの「Beyond 100 Meters」では、100mを超える配線について、単一の距離値だけで判断するのではなく、アプリケーション、PHY、ケーブル、PoE、温度などを組み合わせて評価する必要があるとしています。つまり、「何mまで延ばせるか」を先に決めるのではなく、「何を、どの条件で接続するのか」を明確にすることが出発点になります。
距離が長くなるほど挿入損失が増える
メタル配線では、ケーブルが長くなるほど信号の減衰、すなわち挿入損失(Insertion Loss)が大きくなります。100mを超える配線では、この挿入損失が使用するEthernetアプリケーションの許容範囲に収まるかどうかが、通信可能な距離を判断する重要な要素になります。
ここで重要なのは、ケーブルのカテゴリ名だけで距離を決めることはできないという点です。同じ性能クラスの配線でも、ケーブル構造や導体径などによって挿入損失特性は異なるため、R&Mは実際のケーブル性能と使用するアプリケーションの条件を組み合わせて評価する必要があるとしています。
使用するEthernet PHYによって条件は変わる
Ethernetでは、通信速度やPHYによって使用する周波数帯域や伝送条件が異なります。そのため、あるケーブルで特定のEthernetアプリケーションが100mを超えて動作したとしても、別のPHYや、より高速なEthernetへ変更した場合に同じ距離で利用できるとは限りません。
これは、前章で説明したGeneric Cablingとの大きな違いでもあります。100mを超えるメタル配線では、「このケーブルは何m使えるか」ではなく、「このケーブルと、このアプリケーションの組み合わせでは、どこまで使用できるか」という考え方が重要になります。
PoEではデータ通信だけでなく給電条件も考える
PoEを使用する場合は、データ通信の成立だけでなく、ケーブルを通じて必要な電力を端末まで供給できるかも確認する必要があります。距離が長くなると導体抵抗による電圧降下や電力損失が増えるため、接続する機器が必要とする電力、PoEのクラス、ケーブルの導体径や構造なども設計条件になります。
さらに、PoEによる給電ではケーブルの温度上昇も考慮する必要があります。R&Mのホワイトペーパーでは、周囲温度が20℃を超える場合の温度ディレーティングを示しており、温度条件によって達成可能な配線距離を短く見積もる必要があることを示しています。
温度が上がると達成可能な距離は短くなる
銅導体は温度が上昇すると抵抗が増加し、それに伴ってケーブルの挿入損失も増加します。そのため、同じケーブルとアプリケーションの組み合わせでも、20℃の環境で算出した距離を、高温環境へそのまま適用することはできません。
特にPoEを利用する配線では、周囲温度だけでなく、ケーブル束内での発熱なども考慮する必要があります。100mを超える配線では距離そのものだけを見るのではなく、実際に設置される環境を含めて伝送性能と給電性能を評価することが重要になります。
「実際に通信できた」だけでは十分ではない
100mを超えて機器同士を接続し、正常に通信できれば問題ないように思えるかもしれません。しかしR&Mは、機器を接続して動作を確認するだけでは、配線チャネルそのものを十分に評価したことにはならないと指摘しています。
実機による動作確認は、その時点で使用した機器、PHY、ケーブル、温度などの条件で通信できたことを示すものです。一方、配線インフラとして評価するには、挿入損失などの伝送性能、PoE、温度ディレーティング、使用するアプリケーションの限界などを確認し、そのチャネルがどの条件まで使用できるのかを明確にする必要があります。
100mを超える配線では、「通信できる距離」と「設計条件を明確にして使用できる距離」を区別して考えることが重要です。
100mを超えるための選択肢は一つではない
100mを超える配線が必要になったとき、最初にExtended Reach Copperを選ぶとは限りません。R&Mの「Beyond 100 Meters」では、必要な距離だけでなく、アプリケーション、通信速度、PoE、設置環境、将来の拡張性、運用方法などによって、適切な配線方式は異なるとしています。
R&Mはこの考え方を、「100mを超えるための答えは一つではない」という立場で整理しています。100mを超えるという共通の課題に対しても、既存のメタル配線を延長する方法、ネットワーク機器を端末側へ近づける方法、光ファイバーを利用する方法、SPEを利用する方法など、異なるアプローチがあります。
高性能ケーブルによるExtended Reach
一つ目は、より高い伝送性能を持つケーブルを使用し、単一のメタル配線チャネルを100mを超えて延長する方法です。中間に通信機器を追加する必要がなく、既存の4ペアEthernetやPoEを利用できるため、遠隔に配置された機器を比較的シンプルな構成で接続できる可能性があります。
ただし、100mを超えた部分を通常のGeneric Cablingと同じように扱えるとは限りません。使用するEthernetアプリケーション、PHY、PoE、ケーブル性能、温度などの条件を明確にし、前章で説明したように、その組み合わせでどの距離まで利用できるのかを個別に確認する必要があります。
通信設備を端末側へ近づける
二つ目は、通信室や中間ディストリビュータ、ゾーン配線などを利用して、ネットワークの接続点そのものを端末側へ近づける方法です。1本のメタル配線を長くするのではなく、100m以内で接続できるようにネットワーク構成を見直します。
この方法ではGeneric Cablingの基本的な構成を維持しやすい一方、新たな通信設備を設置するスペースや電源、場合によっては空調や保守が必要になります。そのため、長距離メタル配線を採用した場合のコストだけでなく、中間設備を設けた場合の設備・運用コストまで含めて比較する必要があります。
光ファイバーと電源を組み合わせる
より長い距離や高い通信速度が必要な場合には、データ伝送に光ファイバーを利用し、給電用の銅導体を組み合わせるFibre/Copper Hybridも選択肢になります。メタル配線の伝送距離に依存せずにデータを遠方まで伝送しながら、端末側へ必要な電力を供給する考え方です。
R&Mは、帯域、電力、距離の要求が高く、4ペアメタル配線によるExtended Reachが適さない場合の選択肢として、このようなハイブリッド構成を挙げています。どの程度の距離や電力に対応できるかは、使用するアプリケーションやシステムによって異なるため、個別のシステム条件に基づいて設計する必要があります。
低帯域の固定機器ではSingle Pair Ethernetも選択肢になる
センサーやビル設備、産業機器など、必要な通信速度が比較的低い固定機器では、Single Pair Ethernet(SPE)も選択肢になります。SPEは1対の銅線でEthernet通信を行う方式で、産業オートメーションやビルディングオートメーションなどへの展開が進められています。
ただし、R&MはSPEを一般的な4ペアRJ45配線の代替として位置づけているわけではありません。必要な帯域や接続する機器が明確な用途に対して、SPEの特性が適している場合に検討する選択肢として扱っています。
用途を限定した4ペアExtended Reach Copper
もう一つが、特定のEthernetアプリケーションを前提として、4ペアメタル配線を100mを超えて使用する方法です。たとえば必要な通信速度、PoE、使用するPHYなどが明確で、将来も用途が大きく変わらない固定機器では、アプリケーションごとの条件に基づいて100mを超えるチャネルを設計できる場合があります。
この方法で重要なのは、「4ペアメタル配線だから従来のGeneric Cablingと同じ」と考えないことです。使用できるアプリケーションや距離などの条件を明確にし、通常のGeneric Cablingとは区別して記録・管理することが必要になります。これが前章までに説明してきた、用途や技術条件を明確にした「個別設計」という考え方につながります。
どの方式を選ぶかは「距離」だけでは決められない
これらの方式には、それぞれ異なるメリットと制約があります。たとえば少数の固定機器を既存の通信室から接続する場合と、多数の端末へ高い帯域と電力を供給する場合では、適切な構成は異なります。初期コストだけでなく、電源、空調、保守、将来の機器変更やネットワーク更新まで含めて考える必要があります。
100mを超える配線では、「最も長く届く方式」を選ぶのではなく、その用途に対して最も適切なネットワーク構成を選ぶことが重要です。
Extended Reachを採用するときの設計判断
100mを超えるメタル配線が技術的に可能であっても、それだけでExtended Reachを採用する理由にはなりません。R&MはGeneric Cablingを基本とし、100mを超える配線については、用途や技術条件を明確にした個別設計として判断することを基本的な考え方としています。
そのため、設計の出発点は「何mまで延ばせるか」ではなく、接続する機器に何が必要なのかを明確にすることです。そのうえで、Extended Reach Copperだけでなく、通信設備の追加、ゾーン配線、光ファイバー、Fibre/Copper Hybrid、SPEなども含めて比較し、用途に適した構成を選択します。
まずアプリケーションと端末の条件を明確にする
最初に確認するのは、接続する機器とアプリケーションです。必要な通信速度、使用するEthernet PHY、端末までの距離、PoEの有無と必要な電力などを明確にします。監視カメラやセンサーのように用途が固定されている機器と、将来別の端末へ変更される可能性がある情報コンセントでは、同じ100m超でも設計判断は異なります。
特に重要なのは、現在の機器だけを基準にしないことです。将来、より高速なEthernetへ変更する可能性があるのか、PoEの電力要求が増える可能性があるのかまで考えることで、Extended Reachを採用した場合の制約を事前に把握できます。
ケーブルと到達可能な距離を確認する
次に、使用するケーブルの構造や性能を確認し、対象となるEthernetアプリケーションでどの距離まで使用できるのかを評価します。前章で説明したように、カテゴリ名だけではなく、実際のケーブル性能、PHY、PoEなどを組み合わせて判断する必要があります。
R&Mの設計フレームワークでは、IEEEのアプリケーション上の制限や温度ディレーティングなどを考慮して、到達可能な距離を算出する考え方が示されています。つまり、メーカーが示す代表的な距離値をそのまま採用するのではなく、実際の設置条件を反映した距離として確認することが重要です。
PoEと設置環境を確認する
PoEを使用する場合は、必要な電力を端末まで供給できるかに加え、電圧降下、電力損失、ケーブルの温度上昇なども確認します。周囲温度やケーブル束の状態によっては、20℃を基準に算出した距離からディレーティングが必要になる場合があります。
したがって、設計時には通信室側の条件だけではなく、実際にケーブルが敷設される経路や温度環境まで把握する必要があります。100m超では、「どのケーブルを使うか」と「どの環境で使うか」を切り離して考えることはできません。
試験方法と合否基準を事前に決める
100mを超える配線では、施工後にどのような方法でチャネルを試験し、何をもって合格とするのかを設計段階で決めておくことも重要です。実機を接続して通信できることだけを合否基準にするのではなく、対象となるアプリケーションと配線システムに応じた試験方法と受入基準を明確にします。
これは施工後になって「100mを超えているため通常の試験条件では判断できない」とならないためにも重要です。設計条件と試験条件を最初から対応させておくことが、100m超の個別設計では必要になります。
制約条件を記録し、通常のGeneric Cablingと区別する
Extended Reachを採用したチャネルでは、その配線がどのアプリケーション、PHY、PoE、距離、環境条件を前提として設計されたのかを記録します。さらに、そのチャネルに将来どのような機器を接続できるのか、あるいはどのような変更には対応できないのかといった制約も明確にしておく必要があります。
R&Mは、こうした100m超のチャネルを明確にラベル付けし、通常のGeneric Cablingと区別して文書管理することを推奨しています。用途を限定した個別設計であることが将来の管理者にも分かるようにしておくことで、機器交換やネットワーク更新の際に、誤って通常の汎用配線として扱われることを防ぐことができます。
100m超の個別設計で確認する項目
R&Mの設計フレームワークを実務的に整理すると、100mを超える配線を採用する前に、少なくとも次の項目を確認する必要があります。
- 接続するアプリケーションと端末が明確になっているか
- 必要な通信速度とEthernet PHYが明確になっているか
- PoEのクラスと必要な電力が確認されているか
- 使用するケーブルの構造と性能が確認されているか
- PHY、ケーブル、PoE、温度を考慮して到達距離を確認したか
- 試験方法と合否基準を決めているか
- 周囲温度などの設置環境を記録しているか
- 使用できるアプリケーションや将来の制約を文書化しているか
- 通常のGeneric Cablingと区別できるよう、ラベルと管理情報を残しているか
これらを確認することで、Extended Reachは単に「100mを超えて通信できる配線」ではなく、用途、性能、環境、試験、将来の制約まで明確にした配線システムとして管理できるようになります。
どのくらいの距離まで延長できるのか
ここまで見てきたように、100mを超えるメタル配線では、「何mまで使えるか」をケーブルのカテゴリだけで決めることはできません。使用するEthernetアプリケーション、ケーブル構造、導体径、PoE、温度などによって、到達可能な距離は変わります。
R&Mの「Beyond 100 Meters」では、この違いを具体的に示すため、Appendix Aに20℃でのアプリケーション別の電気的チャネル長の参考値を掲載しています。ここで示されている数値は、100mを超える距離を一律に保証するものではなく、ケーブルとアプリケーションの組み合わせによって到達距離がどのように変わるのかを示す技術的な参考値です。
同じケーブルでもアプリケーションによって距離は変わる
たとえば、R&Mの表ではS/FTP Category 7A AWG22の場合、20℃における電気的チャネル長の参考値として、10BASE-Tでは230m、100BASE-TXでは149m、1000BASE-Tでは132mが示されています。一方、U/FTP Category 6A AWG23では、それぞれ207m、134m、133mとなっています。
この数値から分かるのは、「高性能なケーブルなら一律に○mまで使える」ということではありません。同じケーブルでも、使用するEthernetアプリケーションが変われば到達可能な距離も変わるということです。100mを超える配線では、ケーブルとアプリケーションを組み合わせて距離を評価する必要があります。
R&Mが示す20℃での参考値
原本のAppendix Aでは、次の値が示されています。
| ケーブルタイプ | 10BASE-T | 100BASE-TX | 1000BASE-T | PoE |
|---|---|---|---|---|
| S/FTP C7A AWG22 | 230m | 149m | 132m(149m※) | 216m |
| U/FTP C6A AWG23 | 207m | 134m | 133m(134m※) | 171m |
| U/UTP C6A AWG23 | 217m | 141m | 107m(125m※) | 158m |
| U/UTP C6 AWG23 | 213m | 138m | 112m(138m※) | 160m |
| U/UTP C6 AWG24 | 188m | 121m | 110m(121m※) | 138m |
| U/UTP C5e AWG24 | 182m | 118m | 114m(118m※) | 127m |
※括弧内は、遅延制限を考慮しない場合の到達可能なチャネル長です。ネットワーク機器の種類や世代によっては、特定のコリジョンドメイン要件が適用されない場合があります。
この表を見ると、ケーブルのカテゴリだけでなく、導体径やシールド構造、使用するEthernetアプリケーションによって距離が異なることが分かります。また、PoEについてもデータ通信とは別の距離値が示されており、データ通信と給電の両方を満たす条件で設計する必要があります。
温度が20℃を超える場合はディレーティングが必要
Appendix Aの距離値は20℃を前提としています。実際の敷設環境では温度がこれを上回ることがあるため、R&Mは配線規格に基づく温度ディレーティングも併記しています。
- シールド配線:20℃を超える1℃ごとに、到達可能距離を0.2%低減
- 非シールド配線(20~40℃):20℃を超える1℃ごとに0.4%低減
- 非シールド配線(40~60℃):40℃までの低減を適用したうえで、40℃を超える1℃ごとに0.6%低減
たとえば20℃で算出した距離がそのまま高温環境でも使用できるとは限りません。さらにPoEではケーブル束内での発熱も加わるため、実際の設置環境を反映して到達距離を評価する必要があります。
この数値を「最大配線長」として使わない
ここで特に注意したいのは、表の数値を「このケーブルなら必ず○mまで使える」という最大配線長として扱わないことです。R&M自身も、これらを典型的な参考値と位置づけ、プロジェクト固有の設計や現場での検証に代わるものではないとしています。
また、原本ではパッチコードやCPケーブルによる追加の減衰によって、実際のチャネル到達距離が短くなることも考慮する必要があるとしています。したがって、実際の設計ではケーブル単体ではなく、接続部やパッチコードを含めたチャネル全体として評価することが重要です。
R&Mがこの表で示しているのは「100mを何mまで延ばせるか」という単一の答えではなく、アプリケーション、ケーブル、温度、PoEなどの条件によって、使用できる距離そのものが変わるということです。
R&Mが考える「Beyond 100 Meters」
100mを超える配線への要求は、監視カメラ、無線LANアクセスポイント、センサー、ビル設備など、Ethernetに接続される機器と設置場所が広がるなかで現実的な課題になっています。より高性能なケーブルやExtended Reach技術によって、100mを超える通信が可能になるケースも増えています。
しかしR&Mの「Beyond 100 Meters」が示しているのは、100mという距離制限を単純に取り払う考え方ではありません。R&Mが基本としているのは、ISO/IEC 11801シリーズやANSI/TIA-568シリーズなどに基づくGeneric Cablingの相互運用性、機器選択の自由度、将来のネットワーク変更への対応力を維持することです。
Generic Cablingを基本とし、必要な場合に100m超を検討する
100mを超えること自体が目的ではありません。まずGeneric Cablingを基本とし、それでは対応しにくい距離や設置条件がある場合に、通信設備やゾーン配線の追加、Extended Reach Copper、光ファイバー、Fibre/Copper Hybrid、SPEなどの選択肢を比較します。
そのうえで100mを超えるメタル配線を採用する場合には、アプリケーション、PHY、PoE、ケーブル性能、温度、試験条件などを明確にし、用途や技術条件を明確にした個別設計として扱うというのがR&Mの基本的な考え方です。
Extended Reachにはメリットとトレードオフがある
Extended Reach Copperを利用すれば、中間に通信設備を追加せず、遠隔の機器までEthernet通信やPoE給電を行える可能性があります。通信室や中間設備を増やさずに済めば、設備スペース、電源、空調、保守などを削減できる場合もあります。
一方で、Generic Cablingが持つ汎用性の一部を、特定のアプリケーションやPHY、距離などの条件へ置き換えることになります。そのため、現在の機器で通信できるかだけではなく、将来の機器変更やネットワーク更新まで含めて、そのトレードオフを理解して採用する必要があります。
「何mまで届くか」から「どの構成が適しているか」へ
100mを超えるLAN配線を検討するときに重要なのは、最も長く通信できるケーブルを探すことではありません。接続する機器に必要な通信速度、PoE、距離、設置環境、将来の変更などを整理し、それに適したネットワーク構成を選択することです。
Generic Cablingを基本としながら、100mを超える必要がある場合には、複数の選択肢を比較し、用途と技術条件に基づいて個別に設計する。
これが、R&Mのホワイトペーパー「Beyond 100 Meters」が示す、100mを超えるLAN配線に対する基本的な考え方です。
さらに詳しく知りたい方へ
本記事は、R&Mが公開したホワイトペーパー「Beyond 100 Meters」の内容をもとに、日本のネットワーク設計者・技術者向けに、100mを超えるLAN配線を検討する際の主要な考え方を整理・解説したものです。
より詳しい技術情報に加え、100mを超える配線に関する規格動向やTIA-TSB-5073の位置付けを確認したい方は、R&M「Beyond 100 Meters」ホワイトペーパー(英語版)をご覧ください。
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