初心者からプロフェッショナルまで、ケーブル診断の全てをカバーします。
ケーブルテスターの基本を学び、トラブルを未然に防ぐスキルを身につけましょう!

目次

第1章:ケーブルテスターの種類と基本

【重要】「適格性評価」と「検証」— 用語の定義について

ケーブルテスターの評価方法は大きく Certification(認証)Qualification(適格性評価)Verification(検証) の3つがあります。 このうち Certification(認証) は「規格に適合しているかを証明する」という明確な意味を持ち、日本語訳でも混乱はほとんどありません。そのため、本稿では次節以降で詳しく解説します。ここではまず、特に混同されやすい Qualification と Verification について定義を整理します。

例えば、一部のメーカーでは、Qualification を「検証」、Verification を「検査」と翻訳しています。

これに対し、本サイト『Cabling Cert Tech』では、各単語が持つ本来の意味と、テスターが果たすべき役割をより正確に区別するため、米国の業界団体TIAの定義にもとづき、以下のように用語を定義し、記事全体で統一いたします。

  • Verification → 「検証」と定義 Verify とは「それが事実か、正しいかを確認する」という意味です。テスターの役割は、ワイヤーマップが正しいか、断線・短絡がないかといった配線が物理的に正しいかという「事実」を確認(Verify)することです。よって、本サイトではこれを「検証」と呼びます。
  • Qualification → 「適格性評価」と定義 Qualify とは「特定の目的や活動に対する資格(能力)があるかを見極める」という意味です。テスターの役割は、既存の配線が10GBASE-Tといった特定のアプリケーションを動かす「能力(資格)」があるかを評価(Qualify)することです。よって、本サイトではこれを「適格性評価」と呼びます。

要約すると、「検証」は配線の”今ある姿”が正しいかを確認し、「適格性評価」は配線が”将来の仕事”をこなせるかを見極める、という違いになります。

この定義に基づき解説を進めることで、皆様の正確なご理解の一助となれば幸いです。

ネットワーク配線の品質を保証し、問題を迅速に解決するために使用されるケーブルテスターは、その機能と提供する保証レベルに応じて、複数のカテゴリに分類されます 。

単にケーブルの物理的な健全性を確認するものから、業界標準への準拠を法的に証明するもの、さらには接続先のネットワーク機器との通信までを診断するものまで、その役割は多岐にわたります。

ここでは、ケーブルテスターを主要な6つのカテゴリに分類し、それぞれの目的と特徴を解説します。

1. 認証 (Certification) テスター

  • 目的: 敷設されたメタル線または光ファイバーの配線が、TIA/ISO/JISなどの業界標準規格に適合していることを厳密に測定し、**「証明」**します 。規格への準拠を保証する唯一の方法です。
  • 特徴:
    • NEXT(近端漏話)、リターンロス、挿入損失など、規格で定められた全てのパラメータを規定された測定確度で試験し、結果を「合格/不合格」で明確に示します 。
    • ケーブルメーカーが提供する長期製品保証(システム保証)を申請する際の必須ツールです 。
    • 測定は、テスターの本体(メインユニット)と遠端機(リモートユニット)を配線の両端に接続して行う、双方向性試験(Bidirectional Test)が求められます 。
  • 代表例:
    • フルーク・ネットワークス(フルーク社) / DSX CableAnalyzer™ シリーズ
    • AEM / TestPro CV100

2. 適格性評価+ (Qualification+) テスター

  • 目的: 従来の「適格性評価」と「認証」の間のギャップを埋める、新しいカテゴリのテスターです 。メーカー保証は不要だが、ワイヤーマップ以上の詳細な性能確認や、既存配線が上位規格(例:Cat 6A)の要件を満たせるかの評価を行いたい場合に最適です 。
  • 特徴:
    • Certi-Liteと呼ばれる、片側(シングルエンド)での規格準拠テスト技術を搭載しています 。
    • 認証テスターより大幅に低価格でありながら、NEXT、リターンロス、挿入損失など認証試験で用いられる多くのパラメータを測定し、合否判定付きの詳細なレポートを提供します 。
    • メーカー保証の申請には使用できませんが、ネットワーク管理者による日常的な性能管理やトラブルシューティングで絶大な効果を発揮します 。
  • 代表例:
    • AEM / Network Service Assistant (NSA)

2. 適格性評価 (Qualification) テスター

  • 目的: 既存のケーブル配線が、特定のネットワーク速度(例: 2.5GBASE-T, 10GBASE-T)やアプリケーション(例: VoIP)をサポートできる**「能力」**があるかを評価します 。
  • 特徴:
    • 規格への準拠を証明するものではありません 。
    • 実際のデータ伝送を想定した信号対雑音比(SNR)を測定し、PoE負荷がかかった状態でのリンク性能を客観的に評価することで、そのケーブルが目標速度で実際に稼働できるかの判断材料を提供します 。
  • 代表例: この機能は、後述する高機能な「ケーブル+ネットワーク・テスター」に統合されていることが多く、NetAlly社の LinkRunner 10G や AEM社の TestPro / NSA などがSNR測定による適格性評価機能を備えています。

3. 検証 (Verification) テスター

  • 目的: ケーブルの結線(ワイヤーマップ)が正しいか、断線、短絡、対分割(スプリットペア)がないかといった、基本的な物理的接続性を「確認」します 。
  • 特徴:
    • 最も基本的な機能を持つテスターで、操作が簡単です 。
    • TDR(時間領域反射率計)技術を用いて、断線やショート箇所までの距離を測定できるモデルもあります 。
  • 代表例:
    • フルーク・ネットワークス /MicroScanner™ シリーズ

4.ケーブル+ネットワーク・テスター

  • 目的: 上記の「検証」や「適格性評価」の機能に加え、接続先のネットワーク機器の状態を診断します 。問題がケーブルにあるのか、ネットワーク設定にあるのかの切り分けを迅速に行うことを目的とします 。
  • 特徴:
    • 物理的なケーブル品質のテストだけでなく、接続先のスイッチからポート速度、VLAN、PoE(Power over Ethernet)のクラスといった情報を能動的に取得できます 。
    • DHCPサーバーからのIPアドレス取得や、指定したIPアドレスへの疎通確認(ピングテスト)も可能です 。
    • 高機能モデルでは、ネットワーク上の全デバイスの検出・マッピングや、Wi-Fiネットワークの電波強度測定・トラブルシューティングまで行えるものもあります 。
  • 代表例:
    • NetAlly / LinkRunner® AT/10G シリーズ, EtherScope® nXG
    • フルーク・ネットワークス / LinkIQ™ Duo
    • AEM / TestPro CV100, NSA (AD-NET-CABLEアダプター使用時)

5. 光ファイバーテスター

  • 目的: 光ファイバーケーブルの性能を測定し、品質を保証します。
  • 特徴:
    • 光損失測定試験セット (OLTS): リンク全体の光損失(減衰量)を正確に測定するツールです 。業界規格では「Tier 1」認証として必須とされています 。
    • 光パルス試験器 (OTDR): 光パルスをファイバーに入射させ、その反射を測定することで、接続点や融着点の損失、反射率、障害箇所までの距離などを詳細に評価します 。これは「Tier 2」または「拡張」認証と呼ばれます 。
  • 代表例: これらの機能は、多くの場合、認証テスターの交換式アダプターとして提供されます 。Fluke、AEM、NetAlly各社が対応するソリューションを提供しています。

【コラム1】認証テストの「基準」となる標準規格とは?

ケーブル配線の品質を「認証」するという行為は、国際的な配線規格に基づき、所定の試験基準を満たしていることを第三者的に証明することを意味します。

これらの規格は、配線の構造・性能要件・試験項目・合否判定方法までを明確に定めたものであり、適切なツール(認証テスター)を使って、これらの基準に照らした測定を行うことが必要です。

以下に代表的な規格を紹介します。


📘 主な認証規格

規格名発行団体主な対象特徴
TIA-568.2-DTIA(米国)ツイストペア銅線配線米国主導の配線規格。Cat5e~Cat8に対応。
ISO/IEC 11801シリーズISO/IEC(国際)国際的なLAN配線Class D(Cat5e相当)〜Class FA(Cat7A)など広範なカバレッジ。
JIS X 5150JISC(日本)国内配線規格ISO/IEC 11801をベースとした日本の国家規格。建築設計で多用。
TIA-1152-ATIAテスター精度の規格認証テスターそのものが満たすべき測定精度を規定。

補足:どの規格を使うべきか?

  • 海外案件 → ISO/IECまたはTIA
  • 日本国内の公共・建築案件 → JIS X 5150
  • テスター選定時 → TIA-1152-A適合であることが信頼性の証明に

このように、認証試験とは単なる「ケーブルのテスト」ではなく、「世界共通の品質基準に準拠しているかを証明する」プロセスであり、選ぶテスターや手順も、その目的に応じて適切である必要があります。


【コラム 2】 なぜテスターでコストが変わる?「認証」とメーカー保証の仕組み

記事を読み進める中で、「なぜ認証テスターは高価なのか?」「メーカー保証が不要とはどういう状況か?」と疑問に思う方もいるかもしれません。この違いを理解することは、適切なテスターを選ぶ上で最も重要です。

「メーカー保証」とは? これは、施工業者が提供するものではなく、

ケーブルやコネクタを製造する配線システムメーカーが、正しく施工された配線システム全体に対して提供する20年や25年といった長期の製品性能保証のことです 。

「認証テスター」が必須の理由 この長期保証を取得するためには、施工業者はメーカーから承認された「認証テスター」を使い、規格で定められた厳格な双方向試験(メインユニットとリモートユニットによる試験)に合格したレポートを提出することが絶対条件となります 。この精度の高い双方向測定能力こそが、認証テスターが高価である理由です。

コスト削減の選択肢:「Qualification+」 一方で、顧客との契約でこの「メーカー保証」の取得が求められていないプロジェクトも多く存在します 。そのような場合、施工業者は認証テスターを導入する必要がありません。

そこで登場するのが「Qualification+」テスターです 。このテスターは、高価なリモートユニットの代わりに、小型のパッシブ終端器を用いた片側(シングルエンド)試験という仕組みを採用しています 。これにより、認証テスターの数分の一という価格で、規格に準拠した詳細な性能レポートを提供できるのです 。

つまり、「メーカー保証」という最上位の品質証明が不要な場合に、テスターの選択肢を変えることで、品質を高いレベルで担保しながら機材導入のコストを大幅に抑えることが可能になるのです。。

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