ネットワークの信頼性は、適切に設計された配線と、その性能を客観的に確認できる試験によって支えられています。 しかし「認証試験」と一口に言っても、どの規格に基づくのかどんな試験項目があるのか、そして結果をどう評価すべきか――専門的な理解が欠かせません。

本ページでは、規格の成り立ち現場で行われるフィールド試験結果を裏付ける文書の重要性を整理し、認証試験の基礎をわかりやすく解説します。 これから学ぶ方には理解を深める一助となり、経験者には知識の整理に役立ちます。

目次

はじめに

ネットワーク配線は、オフィスやデータセンターの基盤を支える重要なインフラです。
しかし、施工が完了しただけでは、その配線が規格に準拠し、長期にわたり安定して使えるかどうかは分かりません。
そこで必要になるのが 「認証試験」 です。

認証試験は、ISO/IEC・TIA・JIS などの国際規格に基づいて実施され、ケーブルの性能を数値で確認し、「規格を満たしている」ことを客観的に証明します。
単なる動作確認(疎通テスト)とは異なり、規格適合を第三者に示せる唯一の手段です。

本記事では、認証試験の基本的な考え方試験対象範囲、試験で発生する**「マージナル合格」の扱い、さらに試験終了後に必要となる文書**(試験成績書・校正証明書・トレーサビリティ・チャート)について解説します。
施工業者・ネットワークエンジニア・管理者の方が 「なぜ認証試験が不可欠なのか」 を理解する一助となれば幸いです。

第1章:認証試験とは?

そこで必要になるのが、認証試験(Certification Test) です。
認証試験とは、施工された配線システムが ISO/IEC、TIA、JIS などの規格に準拠しているかどうかを客観的に確認する試験です。
この試験を行うことで、ネットワークの安定性と将来の高速アプリケーションへの対応を確実に保証できます。

第2章:認証試験に必要なドキュメントとメリット

情報配線システムの構築において、認証試験は不可欠なプロセスです。ケーブルやコネクターといった配線部材が規格に準拠していても、施工者の技量や環境によって最終的な配線の性能が低下する可能性が指摘されています。
この性能低下を回避し、敷設された配線が規格で定められた要件を確実に満たしていることを証明するため、規格に準拠した認証試験が実施されます。

認証試験の結果として提出される「試験成績書」は、施工側とユーザー側の双方に明確なメリットをもたらします。

  • 施工側にとっては、適切な部材と施工方法が採用されたことの証明となり、品質保証の客観的な根拠となります。
  • ユーザー側にとっては、配線の性能が仕様通りであることを確認でき、将来的なアップグレードやトラブルシューティング時の重要な参考資料となります。

さらに、試験成績書は 法務的・契約的リスク管理の手段 としても機能します。

3つの重要な提出書類

認証試験は、単にケーブル配線の性能を「測定」するだけではなく、規格に準拠して施工が正しく行われ、その性能が客観的に保証されていることを文書によって証明する仕組み**です。
そのため、試験の終了後には、試験結果を示す以下の3つの重要な文書を受領する必要があります。


1. 試験成績書(Test Report)

試験成績書は、規格で定められた測定項目(挿入損失、反射減衰量、近端漏話減衰量、伝搬遅延、ワイヤーマップなど)の結果をまとめた公式レポートです。
通常はフィールドテスターに付属するソフトウェアによって自動生成され、規格に沿ったフォーマットで出力されます。

これにより、施工された配線が規格の規定値を満たしていることをユーザーと発注者の双方が確認でき、将来のネットワーク拡張や障害発生時のトラブルシューティングにも役立ちます。


2. 校正証明書(Calibration Certificate)

校正証明書は、測定に用いた試験器が規定された範囲内で正しい値を示すことを保証する文書です。
フィールドで使用されるテスターは厳しい環境に晒されるため、年1回程度の校正が推奨されています。

校正証明書を添付することで、「その測定結果が正確である」という裏付けが得られます。


3. トレーサビリティ・チャート(Traceability Chart)

トレーサビリティ・チャートは、校正証明書をさらに補強する文書です。
測定器の校正に使用された標準器が、国家標準まで遡って正確性が保証されていることを示す証拠となります。

これにより、測定器の値の信頼性が体系的に裏付けられると同時に、試験結果を第三者に説明可能となります。

第3章:情報配線システムの「3層」規格体系

3.1 伝送規格と配線規格の関係性の詳解

情報配線システムを理解する上で、関連する規格が三つの異なる階層で連携していることを把握することは不可欠です。
規資料はこの点を明確に解説しています。


3.1.1. 伝送規格(IEEE 802.3)

これは最も上位の階層に位置し、ネットワーク機器間の信号伝送や通信の仕組みを定義します。
例えば、1000BASE-Tや10GBASE-Tといった規格は、信号の振幅や遅延といった通信性能要件を定めます。
これにより、ネットワークで実現したいアプリケーションの性能要件に直接対応します。


3.1.2. 情報配線システム規格(JIS、ISO、TIA)

この階層の規格は、伝送規格の要件を満たすための配線部材(ケーブル、コネクター、パッチコード)や、敷設された配線全体の性能要件を規定します。
例えば、10GBASE-Tの伝送規格を保証するためには、カテゴリー6Aといった規格に準拠した配線が必要となります。


3.1.3. フィールド試験規格(IEC、TIA、JIS)

この規格は、実際に敷設された配線が情報配線システム規格の要件を満たしているかを確認するための試験方法を定めています。
具体的には、測定項目、測定器の要件、試験成績書の内容を詳細に規定しています。
代表的な例として、IEC 61935-1 や JIS X 5116 などが挙げられます。

情報配線に関わる規格の3層構造 伝送方式を定める「伝送規格」、性能要件を定める「情報配線システム規格」、そして施工後に確認する「フィールド試験規格」の3層から構成されます。

最後に、この3層構造は以下のように連携します:

  • 伝送規格:アプリケーション要件を定義
  • 情報配線システム規格:配線仕様を定義
  • フィールド試験規格:施工後の配線が要件を満たしているかを確認

3.2 グローバルと国内規格:JIS, ISO, TIAの比較分析

日本国内の情報配線市場では、主にISO/IEC、JIS、そしてANSI/TIAの3つの規格が用いられています。原資料はそれぞれの規格の出自と主要な利用分野を簡潔にまとめていますが、これらの規格選択は、プロジェクトの性質によって大きく左右されます。

  • JIS規格(JIS X 5150シリーズ): 国際規格であるISO/IEC 11801を翻訳した日本産業規格です。公共建築工事標準仕様書にJIS X5150がベースとして採用されていることから、官公庁や自治体に関連する情報配線工事では広く採用されています。
  • ISO/IEC規格(ISO/IEC 11801シリーズ): 構内情報配線システムの国際規格であり、オフィスだけでなく、工場、住宅、データセンターなど幅広い用途に対応しています 1。国際的なプロジェクトや欧州系の企業で多く使われます。
  • TIA規格(ANSI/TIA-568シリーズ): 米国で策定された規格で、日本の民間企業における情報配線工事では最も広く利用されています。日本で製造・販売される配線部材の中には、この規格に準拠したものが多く含まれており、それがその普及を後押ししています。
伝送規格と配線規格の対応関係 IEEEの伝送規格(IEEE 802.3)と、国際規格(ISO/IEC 11801)、国内規格(JIS X5150、ANSI/TIA-568)などの配線規格の位置づけを整理しています。

日本市場では、公共工事では JIS規格、民間工事では TIA規格 が広く用いられるため、両規格の互換性を理解することが重要です。

3.3 配線性能の定義:クラスとカテゴリーの整理

配線性能レベルは、ISO/JIS規格では「クラス」TIA規格では「カテゴリー」 という用語で定義されています。これらはしばしば混同されますが、その概念は厳密に区別されます。

  • カテゴリー: 主にTIA規格で用いられ、ケーブルやコネクターといった個々の配線部材の性能レベルを指します。
  • クラス: 主にISO/JIS規格で用いられ、個々の部材を組み合わせて構築されたシステム全体の性能レベルを指します。
規格とクラスおよびカテゴリー対応一覧

認証試験では、最終的な敷設成果物である 「パーマネントリンク」(配線盤から通信アウトレットまで)の性能を評価します。したがって、たとえカテゴリー6の部材を使用しても、不適切な施工によって性能が低下した場合、システム全体の性能要件(クラスE/カテゴリー6)を満たせない可能性 があります。

このため、認証試験は、部材の性能が 最終的なシステム性能として保証されているかを客観的に確認するための不可欠なプロセス です。

第4章:ツイスト・ペア・ケーブル認証試験の技術的・実務的洞察

4.1 パーマネントリンクとチャネル

情報配線システム規格では、性能測定の対象として 「パーマネントリンク」「チャネル」 が定義されています。
パーマネントリンク は施工業者が責任を持つ固定配線部分を対象とし、チャネル は実際の運用環境で使用される機器接続コードまでを含む構成を対象とします。
この違いを理解することは、正しい規格解釈や測定結果の評価に欠かせません

  • パーマネントリンク:フロア配線盤から通信アウトレットまでの固定配線の伝送路
  • チャネル:LANスイッチやHUBなどのネットワーク機器と端末間の伝送路。ケーブル・テスターを用いて認証試験が行われます。

パーマネントリンクには配線システムのコネクターを含み、オプションとして分岐点(CP:Consolidation Point)やCPケーブルを追加することも可能です。
規格では、パーマネントリンクの長さは最大90m と定められています。
一方、チャネルはワークエリア・コードおよび機器コードを含む構成で、長さは最大100mまで許容 されます。

特に重要なのは、チャネルの性能評価ではネットワーク機器や端末の接続部は含まれない という点です。

パーマネントリンクとチャネルの構成例 パーマネントリンクは、配線盤(FD:Floor Distributor/フロア配線盤)から通信アウトレット(TO:Telecommunication Outlet/通信アウトレット)までの固定配線部分を示し、最大90mまでと規定されています。 チャネルリンクは、これに機器コードやワークエリア・コードを加えた実運用時の構成を表し、最大100mまで許容されます。

4.2 認証試験の必須項目とその物理的背景

ツイスト・ペア・ケーブルの認証試験では、多くの測定項目が定義されています。その中でも、特に「NEXT」と「RL」は不合格となる可能性が高い重要な項目であり、これらは配線施工の品質を直接的に示す、いわば「電気的指紋」と呼べる項目です。

  • NEXT(近端漏話減衰量): ケーブル内の隣接するペア間で発生する電磁誘導ノイズの大きさを測定します。漏話は主に、コネクター成端時にケーブルの撚りが過剰に戻されることで発生し、この撚りの不具合がノイズ耐性を著しく低下させます。
NEXT(近端漏話)と FEXT(遠端漏話)の発生イメージ:ツイストペアケーブル内で隣接するペア間に生じる電磁誘導ノイズを模式的に示した図。NEXT は送信側近くでの漏話、FEXT は遠端での漏話を表します。

NEXT 試験結果表示(例):測定器による近端漏話量の測定結果。規格値との比較により「合格/不合格」が判断され、通信品質を大きく左右する重要な指標となります。
TDX(Time Domain Crosstalk)解析表示:トラブルシューティングに用いられる機能で、ケーブル内のどの位置で漏話が発生しているかを時間軸で特定可能。施工不良やコネクタ成端不良の位置を把握するのに役立ちます。
  • RL(反射減衰量): 信号の一部が配線の インピーダンス変動 によって反射し、送信側に戻される現象を測定します。インピーダンスは、芯線の太さやペア内の芯線間の間隔によって決まりますが、コネクター成端不良やケーブルの物理的な変形(過度な曲げや圧迫)がその均一性を損ない、反射を増加させます。
リターンロス発生の模式図:本図は、配線内のインピーダンス変動によって信号の一部が反射し、送信側へ戻る現象(リターンロス)を示します。入射波の一部が進行波として伝送される一方、反射波が戻ることで受信信号が減衰し、通信品質へ悪影響を与えます。

本図は、リターンロス測定の結果を示します。反射信号の分布や強度がグラフ化され、ケーブルの伝送特性を把握することができます。
TDR(Time Domain Reflectometry)解析表示:本図は、ケーブル内のどの位置でインピーダンスの変動が発生しているかを時間軸で特定する画面を示しています。施工不良やコネクタ成端不良の位置を把握するのに役立ちます。

これらの測定項目が示す数値は、単なる電気的特性の数値ではなく、配線の物理的な状態と施工品質を反映しています。例えば、NEXTの値が悪い場合は撚りの戻し過ぎ、RLの値が悪い場合はインピーダンスの不整合が疑われます。したがって、認証試験の不合格レポートは、単に「不合格」を通知するだけでなく、その背後にある物理的な問題の具体的な特定を可能にする診断ツールとしての役割を果たします。

4.3 10Gbps時代の新たな測定項目:エイリアン・クロストーク

10GBASE-Tの伝送では、従来の試験項目に加えて「エイリアン・クロストーク(AXT)」の測定が必須となります。AXTは隣接するケーブル間で発生するノイズ干渉であり、従来のNEXTとは異なりデジタル信号処理による除去が困難です。

エイリアン・クロストークの影響模式図:本図は、隣接するケーブル間で発生する電磁誘導ノイズが、右側ケーブル内の複数ペアに干渉する様子を示しています。各ペアは外部からのクロストークの影響を受け、信号品質の低下につながります。

この現象は、ケーブル単体の品質だけでなく、並行敷設されるケーブル配置が性能に大きく影響することを意味しています。対策としては、ケーブル間の十分な離隔距離を確保する、シールド付きケーブルを利用するといった方法が推奨されます。

AXTの出現により、物理層の設計・施工が論理層の性能(データ転送速度)に直結することが改めて明らかになりました。このため、認証試験では全数検査ではなく干渉が顕著に現れる可能性が高いリンクを抽出し、重点的に試験が行われます。

4.4 実務における「合否判定」の真実

最悪マージン

認証試験レポートの「合否判定」だけでは不十分です。結果が合格でも注目すべきは「最悪マージン」です。
最悪マージンとは、実測値が規格値に対してどれだけ余裕(バッファ)を持っているかを示す指標です。

リターンロス測定における最悪マージンの例:本図は、測定値が規格値にどれだけ余裕(バッファ)を持っているかを示しています。最悪マージンは最小の余裕度を表し、配線の信頼性や将来の安定性を判断する重要な指標となります。

マージンが大きいほど、将来的な経年劣化や温度変化といった要因による性能低下が起きても、規格値を下回る可能性が小さいことを意味します。したがって最悪マージンは、配線の特異的な特性(レジリエンス)や「寿命」を数値化したものと捉えることができます。

最悪マージンの確認ポイント

認証試験レポートでは、最悪マージンがどのパラメータで・どの周波数・どのペアで発生したかが明示されます。これを確認することで以下がわかります:

  • 問題がどのケーブルで起きているか
  • 特定の周波数帯で発生しているのか
  • 施工不良(曲げ、圧迫、端末不良など)が疑われるのか

このように原因の切り分けが可能です。したがって、単に「合格」と記録するだけでなく、最悪マージンの値と発生箇所を併せて確認することが、将来のトラブル予防につながります。「合格」と記録するのではなく、最悪マージンの値と発生箇所をあわせて確認することが、将来のトラブル予防につながります。

マージナル合格(*Pass)

ケーブルテスターの測定範囲は、周波数によって変化します。したがって同じ最悪マージンであっても、周波数が異なれば一方は「合格」となり、他方が「不合格」と判定されることがあります。マージナル合格(*Pass)は、テクニカルには合格であっても、将来的なリスクを含んでいる可能性があるため、現在の性能を証明するだけでなく、規格に沿った安定的な運用を保証するうえでも「最悪マージン」の重要性が強調されます。

マージナル合格と不合格領域の関係:本図は、規格限界値と測定確度を考慮した合否判定の境界を示しています。マージナル合格は「規格上は合格」と見なされますが、測定誤差や施工状態によって将来的なリスクを含む可能性があります。
マージナル合格(*Pass)の扱い

設置業者としては、ケーブルのすべてのテスト結果が「合格」となることが理想です。しかし、施工方法・部材の品質・テスターの性能などが影響し、結果が 「マージナルパス(Marginal Pass)」 となる場合があります。

これは 測定値が合格基準に非常に近く、フィールドテスターの測定確度の範囲内にある状態 を意味します。TIAやISO/IEC規格では「合格」と見なされますが、アスタリスク(*)を付けて明示することが規定されています。


留意点
  • 定義:測定値が基準値に近く、規格上は「合格」と扱われる。
  • 表示方法:測定項目にアスタリスク(*)が付与され、マージン不足が示される。
  • 注意点:施工条件によって発生しやすく、顧客によっては受け入れを拒否される場合がある。

💡 したがって、マージナル結果を「合格」とするか「不合格」とするかは、発注者と事前に文書で合意しておくことが極めて重要です。

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