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戦略的国際標準化加速事業

「戦略的国際標準化加速事業」は、日本が国際標準規格を主導的に提案し、採用されることを目指した取り組みです。これまでは、国際標準になったインターナショナル‧スタンダードを日本語化して、あるいは、日本の状況を取り込みつつJIS化するという受け身の活動が主でした。または他国が提案した国際標準化案に対して意見を述べることが多かったのが現状です。

しかし、最近では日本から新しい国際標準を積極的に提案していく必要が強く認識されています。この背景には、経済産業省との協力のもとで推進されている「戦略的標準化加速化事業」があります。この事業は、日本から積極的に新しい国際標準を提案し、国際競争力を強化することを目指しています。 菊池委員長の講演でも、この事業の重要性と今後の期待について詳しく説明がありました。


この事業では、次のような活動が行われています。

  • 市場が立ち上がる前に標準を確⽴                               国際標準や規制の議論がされる以前に、日本が世界で優位に立つための標準化活動を進めています。これにより、グローバル市場における日本の優位性を確保することを目指しています。
  • 新規分野の国際標準化戦略                                     新しい技術やサービスに対する標準化戦略を策定し、関連技術情報や認証データの収集、試験‧認証基盤の構築を実施しています。
  • 次世代標準化⼈材の育成                                         国際標準化に必要な人材を育成するため、戦略的な啓発‧情報提供を行い、次世代の標準化 リーダーを育てる取り組みも行っています。

この取り組みの⼀環として、持続可能かつ高品質な情報通信サービスを提供するための情報配線 システムの構築法と品質保証に関する国際標準化や、次世代通信技術に対応した情報配線システムの実現に向けた高度なスキル人材の確保が重要視されています。

サステナビリティとスキルセット

ここからは、菊池委員長が詳細に説明された、現在進行中の 2 つの主要な国際標準化テーマについてお話しします。

1 つ目は「持続可能かつ高品質な情報通信サービスを提供する情報配線システムの構築と品質保証に関する国際標準化」で通称「サステナビリティ」と呼ばれます。これは、持続可能で高品質な情報通信サービスの提供を目指し、その基盤となる情報配線システムの構築と品質保証について、国際的な標準を策定することを目指しています。

つ目は、「次世代通信技術に対応した高度なスキル⼈材確保に関する国際標準化」です。これもまた、通称で「スキルセット」と呼ばれるテーマです。これは、次世代通信技術の発展に伴い、高度なスキルを持つ人材の確保が重要であることを認識し、そのための国際標準を策定することを目指しています。

サステナビリティに関する国際標準化

「持続可能かつ高品質な情報通信サービスを提供する情報配線システムの構築と品質保証に関する国際標準化」については、すでに審議が進んでおり、あと 1 年程度で国際的な標準として確立される見込みです。この標準化が実現することで、情報配線システムの持続可能性と高品質が保証されることが期待されています。

スキルセットに関する国際標準化

一方で、「次世代通信技術に対応した高度なスキル人材確保に関する国際標準化」については、まだワーキングドラフトの段階です。これから審議が進む予定であり、今後の進展が期待されます。

菊池委員長は、この2つのテーマについて、現在のステージが異なることを説明し、どちらも日本の国際標準化の取り組みにおいて重要な役割を果たすことを強調されました。

実施体制

次に、情報配線システム標準化委員会の実施体制について説明します。この委員会は、標準化案を 審議するために、業界の代表者を委員として開発委員会を設置しています。この開発委員会では、 標準化案の審議が行われ、最終的にはISO/IEC SC25 WG3の国内委員会から国際機関に提案されます。

国内では、この標準化専門委員会の中に設置された開発委員会で審議を進め、国際標準の提案に 向けた準備を行っています。

この図は、情報配線システム標準化委員会の実施体制を示したものです。JEITAの管理体制や、情報配線システム標準化委員会の構成が詳細に示されています。委員会内では、ツイストペア配線 グループ、JIS 原案作成グループ、マーケティンググループ、ISO/IEC 関連グループなどが協力して 標準化に取り組んでいます。


1 つ⽬のテーマ:持続可能な情報配線システム

では早速、1 つ目のテーマである「持続可能な情報配線システム」について説明します。このテーマについては、次の図に示すようなプレス‧リリースが経済産業省から出されています。

このテーマでは環境負荷の側面だけでなく、社会的‧経済的な側面からライフサイクルコストを最適化することを目指しています。この新しい評価軸では、アップグレード可能な (Upgradable) 情報配線 システムが求められています。

持続可能な情報配線システムの要素

持続可能な情報配線システムには以下の要素が含まれます。

  1. 配線設計 報配線システムの設計は、将来の拡張性やアップグレードを考慮して行われるべきです。
  2. 環境に配慮した材料選択
    情報配線システムに使用する材料の選択、包装、輸送においても環境負荷を最小限に抑えることが重要です。
  3. 運⽤と保守管理
    システムの運用と保守管理も、持続可能性を念頭に置いて行われるべきです。
  4. 関連材料の廃棄処理
    使用済みの材料や機器の廃棄処理にも、環境に配慮した方法を採用します。
  5. 必要となる技術‧技術と⼈材育成
    持続可能な情報配線システムを支えるために、技術者の育成や新技術の導入が必要です。

サステナビリティ規格の各章の解説

規格番号は、最終的には ISO/IEC 14763-5 となる予定です。これは、すでに JIS 化されている「施工と計画」の ISO/IEC 14763-2 のシリーズに追加されるもので、サステナビリティを重視した新たな規格となります。

このサステナビリティ規格は、9 つの章で構成されています。

  1. Scope (適用範囲)
  2. Normative references (規範的参照)
  3. Terms, definitions and abbreviations (用語、定義、略語)
  4. Conformance (適合性)
  5. Cabling design (配線設計)
  6. Selection, packaging and transportation of components and related materials (部品および関連 材料の選択、梱包、輸送)
  7. Installation, operation and maintenance (設置、運用および保守)
  8. Management of waste materials (廃棄物管理)
  9. Skill sets and training objectives (スキルセットと研修目標)

これから、一部の章を割愛しつつ、重要な項目に焦点を当て、順を追って説明します。

第 1 章 Scope

第 1 章は Scope(適用範囲) についてです。この規格は、顧客施設内やキャンパス内の情報配線システムのサステナビリティを最大化するための要件と推奨事項を定義しています。


この規格においては、次の項目がカバーされています。

  • 配線設計
  • コンポーネントおよび関連資材の選択、梱包および輸送の方法
  • システムの構築、運用と保守
  • 廃棄資材の処理
  • 設計者、構築者およびユーザーに必要なスキルセット

簡単にいうと、情報配線システムのサステナビリティを最大化するために、さまざまな側面から規定を定義しています。

第3章:Terms, definitions and abbreviations

この章は、規格で使⽤される用語や定義、略語を明確にするためのものです。今後、規格が正式に 制定された場合には、これらの用語や定義がどのように使われるかが重要なポイントとなります。

規格ができた際には、持続可能なケーブリングシステムがこの規格に準拠しているかどうかを認証 することが理想的な形です。この規格自体は認証の仕組みまで踏み込んでいませんが、認証に必要な要件を定義しているため、将来的にはケーブリングシステムのサステナビリティを認証することが 可能になるかもしれません。

サステナブル‧ケーブリング‧システムの定義

サステナブル‧ケーブリング‧システムは次のように定義されています。
「情報配線システムのライフサイクル期間内において、社会的‧環境的‧経済的側面に考慮し、すべての 利害関係者に対するシステムの付加価値の維持と向上を図ることが可能である情報配線システム。」

多くの方が、サステナビリティといえば、環境面だけを考えがちですが、実際には社会的、経済的な 側面も含めた三つの柱を考慮する必要があります。

  1. 社会的側面: システムが社会的なニーズや倫理に適合していること。
  2. 環境的側面: 環境負荷を最小限に抑えること。
  3. 経済的側面: 経済的な効率性とコストパフォーマンスを維持すること。

つまり、ケーブリングシステムは社会的、環境的、経済的な側面をバランス良く考え、最良の選択をすることが重要です。環境に優れた材料や工法を使用するだけでなく、経済的、社会的な側面からも 最適なものを選ぶことが、このサステナビリティの考え方です。

ケーブリング‧システムのライフサイクル

ケーブリング‧システムのライフサイクルは、⼀般的に10年から15年とされています。この期間内で持続可能性を最大化することが目標です。長く持続させることが必ずしも良いというわけではなく、適切な ライフサイクル期間内で材料の更新や工事を行うことが経済的にも効率的です。

サステナブル‧ケーブリング‧システム

サステナブル‧ケーブリング‧システムの重要な要素は、常にアップグレードが可能であることです。 設計から施工までの全プロセスで新しい技術や材料を導入しやすいようにしておくことで、最新の技術を取り入れ、システムを進化させ続けることが可能です。この規格は、新しい技術を導入しやすい フレームワークを提供することを目指しています。

重要な⽤語の定義

以下の 4 つの用語がサステナブルケーブリングシステムにおいて重要です:

  1. Sustainable cabling system:
    社会的、環境的、経済的な側面を考慮し、すべての利害関係者に対してシステムの付加価値を維持し、向上させることができる情報配線システムです。持続可能な社会の実現に向けた重要な概念となります。
  2. Cabling system lifecycle:
    ケーブリングシステムの設計、施工、運用、管理、保守、撤去までの全体のライフサイクルを指します。システムの寿命全体を通じて持続可能性を考慮することで、長期的な視点で システムの維持と改善が行われます。
  3. Document for sustainable cabling system:
    サステナブルケーブリングシステムに関する設計図書や関連文書のことです。これらの文書は標準化され、ステークホルダー(利害関係者)に対して公開することが求められます。持続可能性を確保するために必要な情報を提供する役割を果たします。
  4. Sustainability specialist:
    持続可能性に関する専門教育を受けた人を指し、これらのスペシャリストがシステムの設計や施工を担当します。彼らの専門知識が、サステナブルケーブリングシステムの実現を支援します。

これらの定義を理解することで、持続可能な情報配線システムの構築と運用がより明確になります。

規格の構成と設計に関する議論

次に、サステナビリティ規格の中で重要な 4 章と 5 章について詳しく見ていきます。これらの章では、規格全体の流れやケーブリングデザインに関する基準が定義されています。

第 4 章:Conformance(適合性)

第 4 章「Conformance(適合性)」では、全体の流れを示し、規格に準拠するための要件が説明されています。この章では、配線設計および設置計画、部品および関連資材の選択、梱包、輸送、ケーブルシステムの設置、運用、保守、廃棄資材の処理、技術開発プログラムの要件が規定されています。ISO/IEC 14763-2 に規定される設置要件に加え、施設の所有者または施設の所有者から委託を受けた者が持続可能性文書を作成し、持続可能性専門家の承認を受けなければなりません。

この文書には、システムが持続可能であることを証明するために必要な情報が含まれています。将来的には、持続可能なケーブリングシステムがこの規格に準拠しているかどうかを認証する仕組みが 導入されることが期待されます。

第 5 章:ケーブリングデザイン

5 章では、ケーブリングシステムの設計に関する詳細な基準が定義されています。しかし、設計の範囲が非常に広いため、どこまで含めるべきか、そして設計が本当にサステナビリティに関連しているかを技術的に証明するのは難しいという現実があります。

この章にはケーブリングデザインの基本原則として以下のような項目が含まれます:


持続可能性の配慮: ケーブル設計の全ての段階で、持続可能性を考慮する必要があります。
長期的な戦略的設計: 持続可能な設計を奨励します。
優先順位の設定: 持続可能性への配慮は、他の設計上の配慮よりも優先されるべきです。
トレードオフの実行: ケーブリングエコシステムの最適化のために、さまざまな設計上の考慮事項の間で必要なトレードオフを行わなければなりません。

  • 持続可能性の配慮: ケーブル設計の全ての段階で、持続可能性を考慮する必要があります。
  • 長期的な戦略的設計: 持続可能な設計を奨励します。
  • 優先順位の設定: 持続可能性への配慮は、他の設計上の配慮よりも優先されるべきです。
  • トレードオフの実行: ケーブリングエコシステムの最適化のために、さまざまな設計上の考慮事項の間で必要なトレードオフを行わなければなりません。

これらの原則に基づき、具体的な設計基準が詳細に規定されています。

5.2 配線設計の選択基準
5.3 設置期間中の廃材の削減
5.4 配線インフラの設置計画と実践
5.5 エネルギー要件への配線インフラの影響
5.6 リワークを減らすための品質設計
5.7 サステナビリティと他の考慮事項のバランス
5.8 ケーブリングサステナビリティを評価するための推奨指標ステークホルダー間でのサステナビリティ意識の醸成
5.9 サステナビリティの経済的側面
5.10 サステナブルケーブリングシステムの文書の透明性

設計⽂書の重要性

持続可能なケーブリング‧システムが認められるためには、施設の所有者や委託を受けた者が持続 可能性文書を作成し、持続可能性の専門家(サステナビリティスペシャリスト)の承認を受けなければなりません。文書には以下の情報が含まれることが求められています:

責任者と組織体制
⼀般配線システムの持続可能性に関する責任者とその組織体制を明確にします。
ライフサイクル期間
ケーブル‧システムの設計寿命と運用寿命を定義し、その間の持続可能性を確保します。
アップグレード計画
将来的なアップグレードの時期と目標を予測し、必要な設備や機器の情報を提供します。
廃棄物削減計画
システムのライフサイクルにおいて、廃棄物を最小限に抑える計画を策定します。
保守管理計画
継続的な運用における保守管理計画を策定します。
教育と訓練
持続可能性に関する専門家の教育と訓練に関する証明を提供します。
調達計画
環境に配慮した資材や機器の調達計画を立てます。

  • 責任者と組織体制
    ⼀般配線システムの持続可能性に関する責任者とその組織体制を明確にします。
  • ライフサイクル期間
    ケーブル‧システムの設計寿命と運用寿命を定義し、その間の持続可能性を確保します。
  • アップグレード計画
    将来的なアップグレードの時期と目標を予測し、必要な設備や機器の情報を提供します。
  • 廃棄物削減計画
    システムのライフサイクルにおいて、廃棄物を最小限に抑える計画を策定します。
  • 保守管理計画
    継続的な運用における保守管理計画を策定します。
  • 教育と訓練
    持続可能性に関する専門家の教育と訓練に関する証明を提供します。
  • 調達計画
    環境に配慮した資材や機器の調達計画を立てます。
  • 作業⼿順と⼯程管理
    作業手順と工程管理の詳細を文書化し、施工計画を明確にします。

これらの文書を作成し、専門家の承認を得ることで、サステナブルケーブリングシステムとして認定されます。

以上、5 章「Cabling Design」では、持続可能性を考慮したケーブル設計に必要な基準を詳細に定義しています。設計段階でこれらの基準を遵守することで、持続可能なケーブリング‧システムの構築が可能となります。

第 6 章:部品と材料の選定と管理

第 6 章では、部品や材料の選択に関する規定が定義されています。この章では、サステナビリティの 観点から、材料選定のガイドラインが示されています。

サステナブルな材料の選定

ここでは、材料そのものの製造プロセスに関する具体的な規定は含まれていません。例えば、材料の外被や製造工程での電力消費量といった要素は、この規格では直接取り扱っていません。これらは他の既存の規格に委ねられています。

梱包、輸送、廃棄に関する規定

本規格では、梱包、輸送、および現場での廃棄に関する事項が重視されています。具体的には、以下のような項目が含まれています。

  • 梱包および輸送
    材料の梱包や輸送において、環境に配慮した方法を採用することが求められて います。これは、輸送時のエネルギー消費を最小限に抑え、資材の無駄を減らすことを目指しています。
  • 現場での廃棄処理
    梱包資材の廃棄方法や、施工現場での廃棄物管理についても規定があります。現場での廃棄物を適切に処理することで、環境への影響を最小限に抑えることが求められています。
  • アップグレードを⾒据えた材料選定
    将来的なシステムのアップグレードを前提に、どのような材料を選定すべきかについても触れられています。長期的に使用可能で、メンテナンスや更新が容易な材料を選ぶことが推奨されています。

他の規格との連携

サステナビリティに関する具体的な材料の規定については、他の規格を参照する形を取っています。 これにより、既存の詳細な規定を活用しつつ、ケーブリング‧システムに適した材料選定が可能となります。

以上、6 章では、持続可能な配線施工のための部品および材料の選定、梱包、輸送に関する基準が 定められています。

第 7 章:Installation, Operation and Maintenance

第 7 章では、情報配線システムのインストレーション(設置)、オペレーション(運用)、およびメンテナンス (保守)についての規定が詳細に示されています。この章は、日本が主導して審議を進めており、特に 重要な内容が含まれています。

国際標準化への⽇本のリーダーシップ

この規格全体のプロジェクトリーダーは日本が担当しており、プロジェクトを進める上で重要な役割を 果たしています。宮島氏、広瀬氏がプロジェクトリーダーとして、規格の IS (International Standard)までのコントロールを行っています。各章の責任者である Clause Editor (クラウゼ‧エディター)を各国から任命し、日本は特に 7 章と 9 章を担当しています。7 章は非常に重要で、日本がイニシアティブをとって審議を進めています。

設置、運⽤、保守におけるサステナビリティ

第 7 章では、情報配線システムの設置、運用、保守において、サステナビリティを最大化するための 方法が詳細に規定されています。この章では、以下のような工程が含まれます。

  • 設計 (Design)
  • 再設計 (Redesign)
  • 検査 (Inspection)
  • 撤去 (Removal)
  • 測定 (Measurement)
  • 記録 (Documentation)

各工程において、サステナビリティを最大化するための要件(Requirement)と推奨事項(Recommendation)が定義されています。

要件と推奨事項

この規格では、サステナビリティを最⼤化するために必要な事項が、要件(Requirement)として 「しなければならない」という形で定義されています。一方、推奨事項(Recommendation)は 「望ましい」 という形で示されており、努力義務として捉えられます。

  • 要件(Requirement)
    例:特定の設計基準を満たす必要がある。
    例:定期的な検査を行うことが義務付けられている。
  • 推奨事項(Recommendation
    例:設置工程において環境に優しい方法を採用することが望ましい。
    例:廃棄物を削減するための具体的な対策を取ることが推奨される。

これらの要件と推奨事項は、分類されて整理されており、どの事項が必須で、どの事項が推奨であるかが 明確に区別されています。

Pre-installation、Installation、Post-installation のプロセス

このプロセスでは、環境保護と持続可能な資源の利用が重要な要素となります。この観点から、情報配線システムのライフサイクル全体を通じた持続可能な運用が求められています。

Pre-installation(設置前)

  • ケーブルの選択と保管

    ケーブルを選択し、建物内の環境に配慮した資材を調達することが求められます。施工前に ケーブルや材料を適切な場所に保管し、雨、風、雪、日光、極端な温度などの影響を受けないようにすることが必要です。

    ケーブル配線に使用する工具の定期的な点検、保守、校正が必要です。作業場で発生する 可能性のある事故や作業ミスを事前に検討し、防止策を講じることも重要です。

Installation(設置)

  • ケーブルの敷設

    ケーブルの敷設は、持続可能なシステムを構築するために、建物内の環境を考慮し、適切な 方法と道具を使用して行われなければなりません。

    作業中の事故防止のため、安全対策を徹底し、工具は、機能性と安全性を確保するため、 作業中も適切に点検されるべきです。設置に使用されるケーブルとコンポーネントの互換性にも注意が必要です。

Post-installation(設置後)

  • ケーブルの撤去

    他のケーブルに影響を与えないように注意し、適切な部品、方法、工具を使用し、適切なケーブルを識別して取り外すことが重要です。

    再利用が想定される材料については、その性能特性を試験し、試験記録、使用回数、設置期間を記録すことが求められます。取り外し時には、作業中の事故を防止するため、安全対策を徹底することが必要です。

7.4章 Operation (運⽤)

持続可能な運用において特に重要な点について説明します。
情報配線システムの運用では、エネルギー効率や廃棄物の削減、リサイクル可能な材料の使用が 推奨されます。これにより、システムの運用コストを削減し、環境への影響を最小限に抑えることができます。


持続可能なケーブルシステムの運用には、インフラデータの更新、特に電力のエネルギー効率に関する記録の維持が必要です。これらは、定期的なテストが実施された際に更新されるべきです。

  • 運⽤要件
    ISO/IEC 14763-2で規定されている運用要件に従わなければなりません。これには、ライフサイクル期間中に必要に応じて随時更新されることが含まれます。
  • 環境要件
    ライフサイクル期間中に確実に満たされるよう、定期的に測定‧観察しなければなりません。
  • エネルギー効率と電⼒損失
    ライフサイクル期間中に効率性が確保されるよう、これらを定期的に監視‧記録することが必要です。
  • メンテナンス
    設置後、ケーブル情報、設置ルート、開通試験結果を記録し、ケーブルシステムのアップ グレードを容易にするための情報を提供します。
  • 情報の更新
    ケーブル配線システムに変更が加えられた場合、またはケーブルが取り外された場合は、変更を記録した情報を更新し、記録しなければなりません。
  • 再利⽤の材料
    使用履歴を残すことが必要です。認定を受けた作業者によって、認定試験に使用されるものなど、特定の認定制度に基づいて指定された工具や機器を使用することが求められます。
  • ⾃然災害への対応
    自然災害などで建物に大きな被害が生じた場合、配線システムの健全性を目視で確認することが必要です。また、通信品質に影響がある場合は、OTDR 試験などを実施して、ケーブル システムの性能を再確認します。

Maintenance(メンテナンス)

7 章の最後のセクションでは、メンテナンスに関する詳細な規定が示されています。メンテナンスには、予防メンテナンス、状態監視メンテナンス、故障後メンテナンスが含まれます。また、自然災害による故障に対するメンテナンスも含まれます。

  • 予防メンテナンス
    予防保全計画に従って、ケーブルの外観を定期的に検査し、異常を発見した場合は速やかに管理者に報告します。必要に応じて改善提案を行います。
  • 状態監視メンテナンス
    配線されたケーブルの状態を定期的にチェックし、紫外線による劣化や小動物による物理的な損傷がないか確認します。必要に応じて、修理や交換を行います。
  • ⾃然災害によるメンテナンス
    地震や洪水などの自然災害が発生した場合、ケーブルが長期間、水やその他の液体に浸漬された場合には、速やかに検査と修復作業を行います。適切な機器と方法を用いて、システム全体の健全性を確保することが求められます。

撤去

第 7 章の重要な要素として、ケーブルの撤去についても詳細に議論されています。

  • 撤去の重要性
    ケーブルの撤去は、環境保護と資源の再利用の観点から非常に重要です。各国で撤去に対する考え方は異なりますが、適切な撤去が行われないと、廃棄物の増加や資源の無駄遣いに繋がります。
  • 国際的な見解の違い
    ⼀部の国では撤去にあまり関心がなく、使い捨て文化が根強い一方で、他の国では再利用や適切な 廃棄処理が重視されています。日本としては、ケーブルの撤去や再利用に関する厳格な基準を設け、 持続可能な運用を推進しています。
  • ケーブルの再利用
    使用済みのケーブルを再利用する場合には、厳格な測定検査と認証を行う必要があります。再利用が 可能なケーブルであっても、性能試験を実施し、合格基準を満たすことが求められます。
  • ケーブル管理
    ケーブルの撤去や更新を検討する際には、徹底したケーブル管理が必要です。撤去したケーブルの適切な処理や再利用のための管理体制を整備し、国際基準に準拠した運用を行います。

このように、第 7 章では情報配線システムの設置、運用、保守、撤去におけるサステナビリティを最大化するための詳細なガイドラインが示されています。これらの規定に基づき、持続可能な運用を実現し、 情報配線システムの品質と長期的な信頼性を確保することが求められます。

第 8 章:廃棄物の管理 (Management of waste materials)

第 8 章では、情報配線システムにおける廃棄物の処理について、WEEE(Waste Electrical and Electronic Equipment Directive:電気電子機器廃棄物指令)に基づいた規定が設けられています。


WEEE 指令に基づく処理⽅法

WEEE 指令に従い、電気および電子機器の廃棄物は、環境に配慮した方法で処理することが求められています。以下のような廃棄物が対象です。

  • プラスチック
    分別してリサイクル施設で処理されます。再利用を促進し、環境負荷を低減します。
  • 金属
    リサイクル可能な金属部品は再利用されます。資源の有効活用が求められます。
  • ファイバー
    光ファイバーなどの材料は、適切な方法で収集・処理されます。
  • 電線被覆材
    電線の被覆材も適切な方法で処理され、環境への影響を最小限に抑えます。
  • 絶縁材、接着剤、塗料
    これらも適切な廃棄処理が求められます。

廃棄物処理の主なポイント

  • 廃棄物の種類ごとの処理
    プラスチック、金属、ファイバー、電線被覆材、絶縁材、接着剤、塗料などを分別し、適切に処理することが求められています。
  • 環境への配慮
    廃棄物の処理は、環境負荷を最小限に抑える方法で行う必要があります。これにより、持続可能な社会の実現に貢献します。

このように、第 8 章では廃棄物の適切な処理が規定されており、環境保護と持続可能な資源の利用を 推進することを目指しています。

第 9 章:サステナビリティスペシャリストのスキルセット

第 9 章では、サステナビリティスペシャリストに求められるスキルセットが定義されています。
この章は日本が主導して進めている重要な部分です。

スキルセットの概要

サステナビリティを実現するためには、関係者全員が持続可能性に対する意識を共有し、同じ方向を目指すことが求められます。これは、各ステークホルダーが共通の目標を持ち、協力して環境、社会、経済のバランスを取った持続可能なシステムを構築するためです。例えば、設計者が環境に配慮した設計を行い、施工者がその設計を正確に実行することで、システム全体が持続可能なものになります。

教育の重要性

ステークホルダー全員が適切な教育を受けることで、サステナビリティに対する理解を 深め、共通の目標に向かって協力することが期待されます。

関係者全員が持続可能性に向けたスキルを身につけるためには、適切な教育が欠かせません。ここでは、ステークホルダー(利害関係者)に求められる具体的なスキルと、その教育の重要性について説明します。

関係者全員が持続可能性に向けたスキルを身につけるためには、適切な教育が欠かせません。ここでは、ステークホルダーに求められる具体的なスキルと、その教育の重要性について説明します。

  1. 設計者: 持続可能な設計方法を学び、環境に配慮した設計を行います。
  2. 施工者: 持続可能な施工技術を習得し、計画に基づいた施工を実施します。
  3. 運用管理者: 持続可能な運用管理手法を学び、システムの最適な運用と保守を行います。

このように、ステークホルダー全員が適切な教育を受けることで、サステナビリティに対する理解を深め、共通の目標に向かって協力することが期待されます。教育を通じて、 持続可能性に対する正しい知識を身につけ、実践的なスキルを習得することが、持続可能なシステムの構築に不可欠です。また、教育によって得られた知識とスキルは、ステークホルダー間での効果的なコミュニケーションと協力を促進します。

定義されるスキルセット

どのステークホルダーがどのような教育を受けるべきかが定義されており、持続可能性に関する知識を持った人材が育成されるようになっています(前ページの参考スライド:ステークホルダーの業務遂行能力要件参照)。これにより、例えば設計者は環境に配慮した設計方法を学び、施工者は持続可能な施工技術を習得します。このように、役割ごとに必要なスキルセットが明確化されているため、関係者全員が持続可能な取り組みを効果的に進めることができます。

評価と認証制度

スキルの評価手段や教育認証制度、教育機関向けのシラバス(教育計画)が規定されています。これにより、持続可能性に関する知識とスキルが客観的に評価され、認証を受けた人材が確実に育成されることが保証されます。また、教育機関はこれらの基準に 基づいてカリキュラムを設計し、質の高い教育を提供することが求められています。

サステナブルケーブリングシステム認証

最終的には、サステナブルケーブリングシステムとして認証されることを目指します。この文書の要件を 満たすケーブルシステムや、認定された専門家によって設置されたシステムは、容易に識別できるようにすることが求められています。

  • 認証の意義
    認証制度そのものは他の機関が設計することになりますが、この規格に基づいて認証が行われることで、サステナブルケーブリングシステムの信頼性と持続可能性が保証されることを期待しています。

サステナブルケーブリングシステムの評価項⽬

以下のスライドは、サステナブルケーブリングシステムの評価項目の概要です。

これらの評価項目は、将来のサステナブルケーブリングシステムとしての認証において重要な基準となります。この表自体はまだ規格に正式には掲載されていませんが、今後の審議を経て採用される可能性があります。

認証と評価の重要性

第 9 章では、持続可能なケーブリングシステムを認証するための評価手段や、教育機関に対する シラバスの作成も含まれています。持続可能なシステムは、認定された専門家によって設置されたものであることが容易に認識できるようにし、そのための認証制度の設計が重要となります。

具体的には、ケーブリングシステムが持続可能性の基準を満たしているかどうかを認証することで、 システムの信頼性と品質を保証します。認証されたシステムは、国際規格に基づいて容易に識別され、広く認知されることが期待されます。これにより、持続可能なシステムの普及が促進され、社会全体の持続可能性が向上するでしょう。

最終的な⽬標と今後の展望

最後に、持続可能なケーブリングシステムの評価項目として、長期的な信頼性やエネルギー効率、 リサイクル可能性などの重要な要素がリストアップされています。これらの項目は、今後さらに議論 され、正式な規格として取り入れられる可能性があります。

これにより、日本が持続可能なケーブリングシステムの分野で世界をリードし、他国に先駆けた取り組みを推進することが期待されます。

2 つ⽬のテーマ:次世代通信技術に対応した⾼度なスキル⼈材確保

次に、「次世代通信技術に対応した高度なスキル人材確保に関する国際標準化」についてお話しします。このテーマは、今後の発展に伴い内容が変更される可能性があるため、現時点での情報として捉えていただければと思います。


国際標準化と⽇本の強み

この国際標準化プロジェクトでは、日本の強みを活かし、情報配線システムの設計、構築、保守、運用に おいて、質の高い人材を確保するための仕組みを構築することを目指しています。特に、日本の人材の 強みを活用し、インフラ輸出における競争力を高めることが重要なポイントです。

このためには、どのようなスキルセットが必要か、品質の維持管理、設計、構築のためにどのような スキルが求められるかを定義し、認定要件を明確にすることが必要です。また、それらを認定する 機関や教育機関の要件を設定し、適切な教育と認定が行われる体制を整備することが求められています。

国際的なスキルセット規格の調和

日本や他の国にはすでに多くの資格制度がありますが、これらのレベルを国際的に調和させ、相互に認証する枠組みを作ることが目指されています。この新しいスキルセット規格は、新たな資格を創設 するのではなく、既存の資格を国際的に認証し、相互に活用できるようにすることを目標としています。

例えば、アメリカの資格を日本で通用させたり、日本の資格を他国で通用させたりするための橋渡しをする規格です。これにより、各国の資格が客観的に評価され、国際的に認知される仕組みが整備されます。これはスキルのマッピングフレームワークとして、各国の資格や教育の内容を統一的に マッピングし、相互に認証し合うことを目指しています。

新たなスキルマッピングの必要性

情報配線システムは、一般的な工業製品とは異なり、顧客の特定のニーズに対応してカスタマイズ されることが多く、そのため現場のノウハウが非常に重要です。日本の強みであるこのノウハウを 「見える化」し、国際的に認知される水準に向けて向上させることが重要です。

本規格は新たな国際的に共通の教育・資格の創設を目的としておらず、各機関が既存のスキームやシステムを持ちながら、それを国際的に認知・共感される水準に向けて向上させる手助けをするものです。新しい資格を作るのではなく、既存のものをどのように相互に活要していくか、教育の無駄を 省くかが焦点となっています。

スキルセットの詳細

光ファイバーに関する教育や資格取得の際、多くの内容が重複しています。共通する 60% の部分を相互認証し、残り 40% を事業者や特定の業務に特化したトレーニングや認証に充てることで、効率的に教育と資格認証を進めることができます。

スキルセット規格は、各国の資格制度を相互にマッピングし、客観的に比較するための枠組みを提供します。これにより、教育や資格の重複を減らし、無駄を省くことができ、国際的な資格制度の調和が進むことが期待されます。

国際的な認証の重要性

認証資格には ISO/IEC 17024 に基づく条件が求められ、継続的な学習プログラムや更新が必須と されます。これにより、認証資格の質が維持され、国際的に認められるものとなります。

認証そのものも各国で異なり、例えば実技試験の方法や条件など、細かく規定される必要があります。これらを調和させることで、国際的な基準に沿った認証資格が確立されます。

今後のステップと展望

今後、2026 年までにサステナビリティプロジェクトを ISO 化し、スキルセット規格についても 2024 年のワーキンググループで投票を行い、2025年までに最初のステップをクリアすることを目指しています。

また、2024 年 9 月には山形県で SC25 会議が開催される予定です。この会議では、サステナビリティやスキルセットに関する審議が行われますので、興味のある方は参加を検討いただければと思います。これが、次世代通信技術に対応したスキル人材の確保に関する国際標準化の概要です。

講演の最後に、菊池委員長は、進展に注目しながら、皆さんのご意見もお聞きし、国際競争力を高めるための取り組みを進めていきたいと述べました。

このブログを締めくくるにあたって

これまでご紹介してきた「持続可能な情報配線システム」や「次世代通信技術に対応した高度な スキル人材確保に関する国際標準化」の取り組みの重要性を改めて強調いたします。情報通信技術が急速に進展する中で、持続可能な配線システムの構築と、それを支える高度なスキルを持つ人材の確保は、ますます重要になっています。これらの課題に対応するためには、国際的な標準化が 不可欠であり、その過程で私たちが果たすべき役割は非常に大きいと考えています。

フルーク・ネットワークスとしても、認証試験用ケーブルテスターのメーカーとして、これらの取り組みに積極的に貢献していくことをお約束します。そして、これからも高精度なテスト機器を提供することで、情報配線システムの品質と信頼性を確保し、持続可能な社会の実現に寄与してまいります。

本ブログを通じて、最新の情報と知見を皆さまにお届けし、情報配線業界の発展に寄与することを 目指しています。読者の皆さまからのフィードバックやご意見を大切にし、より有益な情報を提供できるよう努めてまいります。

また、今回のブログ記事を作成するにあたり、貴重なプレゼン資料をご提供いただき、掲載のご了解をいただきましたJEITAの情報配線システム専門委員会委員長の菊池拓男様に改めて感謝 申し上げます。菊池委員長のご協力のおかげで、この記事をより充実した内容にすることができました。

この記事が、皆さまの理解を深め、日々の業務やプロジェクトに役立つことを願っております。今後も、フルーク・ネットワークスをどうぞよろしくお願い申し上げます。

最後までお読みいただきありがとうございました。完全版PDF「ブログ:JEITA 国際カンファレンス講演「日本発の国際標準規格の動向と認証試験の必要性」をダウンロードいただけます。