初心者からプロフェッショナルまで、ケーブル診断の全てをカバーします。
ケーブルテスターの基本を学び、トラブルを未然に防ぐスキルを身につけましょう!
目次
第1章:ケーブルテスターの種類と基本
【重要】「適格性評価」と「検証」— 用語の定義について
ケーブルテスターの評価方法は大きく Certification(認証)、Qualification(適格性評価)、Verification(検証) の3つがあります。 このうち Certification(認証) は「規格に適合しているかを証明する」という明確な意味を持ち、日本語訳でも混乱はほとんどありません。そのため、本稿では次節以降で詳しく解説します。ここではまず、特に混同されやすい Qualification と Verification について定義を整理します。
例えば、一部のメーカーでは、Qualification を「検証」、Verification を「検査」と翻訳しています。
これに対し、本サイト『Cabling Cert Tech』では、各単語が持つ本来の意味と、テスターが果たすべき役割をより正確に区別するため、米国の業界団体TIAの定義にもとづき、以下のように用語を定義し、記事全体で統一いたします。
- Verification → 「検証」と定義 Verify とは「それが事実か、正しいかを確認する」という意味です。テスターの役割は、ワイヤーマップが正しいか、断線・短絡がないかといった配線が物理的に正しいかという「事実」を確認(Verify)することです。よって、本サイトではこれを「検証」と呼びます。
- Qualification → 「適格性評価」と定義 Qualify とは「特定の目的や活動に対する資格(能力)があるかを見極める」という意味です。テスターの役割は、既存の配線が10GBASE-Tといった特定のアプリケーションを動かす「能力(資格)」があるかを評価(Qualify)することです。よって、本サイトではこれを「適格性評価」と呼びます。
要約すると、「検証」は配線の”今ある姿”が正しいかを確認し、「適格性評価」は配線が”将来の仕事”をこなせるかを見極める、という違いになります。
この定義に基づき解説を進めることで、皆様の正確なご理解の一助となれば幸いです。
ネットワーク配線の品質を保証し、問題を迅速に解決するために使用されるケーブルテスターは、その機能と提供する保証レベルに応じて、複数のカテゴリに分類されます 。
単にケーブルの物理的な健全性を確認するものから、業界標準への準拠を法的に証明するもの、さらには接続先のネットワーク機器との通信までを診断するものまで、その役割は多岐にわたります。
ここでは、ケーブルテスターを主要な6つのカテゴリに分類し、それぞれの目的と特徴を解説します。
1. 認証 (Certification) テスター
- 目的: 敷設されたメタル線または光ファイバーの配線が、TIA/ISO/JISなどの業界標準規格に適合していることを厳密に測定し、**「証明」**します 。規格への準拠を保証する唯一の方法です。
- 特徴:
- NEXT(近端漏話)、リターンロス、挿入損失など、規格で定められた全てのパラメータを規定された測定確度で試験し、結果を「合格/不合格」で明確に示します 。
- ケーブルメーカーが提供する長期製品保証(システム保証)を申請する際の必須ツールです 。
- 測定は、テスターの本体(メインユニット)と遠端機(リモートユニット)を配線の両端に接続して行う、双方向性試験(Bidirectional Test)が求められます 。
- 代表例:
- フルーク・ネットワークス(フルーク社) / DSX CableAnalyzer™ シリーズ
- AEM / TestPro CV100
2. 適格性評価+ (Qualification+) テスター
- 目的: 従来の「適格性評価」と「認証」の間のギャップを埋める、新しいカテゴリのテスターです 。メーカー保証は不要だが、ワイヤーマップ以上の詳細な性能確認や、既存配線が上位規格(例:Cat 6A)の要件を満たせるかの評価を行いたい場合に最適です 。
- 特徴:
- Certi-Liteと呼ばれる、片側(シングルエンド)での規格準拠テスト技術を搭載しています 。
- 認証テスターより大幅に低価格でありながら、NEXT、リターンロス、挿入損失など認証試験で用いられる多くのパラメータを測定し、合否判定付きの詳細なレポートを提供します 。
- メーカー保証の申請には使用できませんが、ネットワーク管理者による日常的な性能管理やトラブルシューティングで絶大な効果を発揮します 。
- 代表例:
- AEM / Network Service Assistant (NSA)
2. 適格性評価 (Qualification) テスター
- 目的: 既存のケーブル配線が、特定のネットワーク速度(例: 2.5GBASE-T, 10GBASE-T)やアプリケーション(例: VoIP)をサポートできる**「能力」**があるかを評価します 。
- 特徴:
- 規格への準拠を証明するものではありません 。
- 実際のデータ伝送を想定した信号対雑音比(SNR)を測定し、PoE負荷がかかった状態でのリンク性能を客観的に評価することで、そのケーブルが目標速度で実際に稼働できるかの判断材料を提供します 。
- 代表例: この機能は、後述する高機能な「ケーブル+ネットワーク・テスター」に統合されていることが多く、NetAlly社の LinkRunner 10G や AEM社の TestPro / NSA などがSNR測定による適格性評価機能を備えています。
3. 検証 (Verification) テスター
- 目的: ケーブルの結線(ワイヤーマップ)が正しいか、断線、短絡、対分割(スプリットペア)がないかといった、基本的な物理的接続性を「確認」します 。
- 特徴:
- 最も基本的な機能を持つテスターで、操作が簡単です 。
- TDR(時間領域反射率計)技術を用いて、断線やショート箇所までの距離を測定できるモデルもあります 。
- 代表例:
- フルーク・ネットワークス /MicroScanner™ シリーズ
4.ケーブル+ネットワーク・テスター
- 目的: 上記の「検証」や「適格性評価」の機能に加え、接続先のネットワーク機器の状態を診断します 。問題がケーブルにあるのか、ネットワーク設定にあるのかの切り分けを迅速に行うことを目的とします 。
- 特徴:
- 物理的なケーブル品質のテストだけでなく、接続先のスイッチからポート速度、VLAN、PoE(Power over Ethernet)のクラスといった情報を能動的に取得できます 。
- DHCPサーバーからのIPアドレス取得や、指定したIPアドレスへの疎通確認(ピングテスト)も可能です 。
- 高機能モデルでは、ネットワーク上の全デバイスの検出・マッピングや、Wi-Fiネットワークの電波強度測定・トラブルシューティングまで行えるものもあります 。
- 代表例:
- NetAlly / LinkRunner® AT/10G シリーズ, EtherScope® nXG
- フルーク・ネットワークス / LinkIQ™ Duo
- AEM / TestPro CV100, NSA (AD-NET-CABLEアダプター使用時)
5. 光ファイバーテスター
- 目的: 光ファイバーケーブルの性能を測定し、品質を保証します。
- 特徴:
- 光損失測定試験セット (OLTS): リンク全体の光損失(減衰量)を正確に測定するツールです 。業界規格では「Tier 1」認証として必須とされています 。
- 光パルス試験器 (OTDR): 光パルスをファイバーに入射させ、その反射を測定することで、接続点や融着点の損失、反射率、障害箇所までの距離などを詳細に評価します 。これは「Tier 2」または「拡張」認証と呼ばれます 。
- 代表例: これらの機能は、多くの場合、認証テスターの交換式アダプターとして提供されます 。Fluke、AEM、NetAlly各社が対応するソリューションを提供しています。
【コラム1】認証テストの「基準」となる標準規格とは?
ケーブル配線の品質を「認証」するという行為は、国際的な配線規格に基づき、所定の試験基準を満たしていることを第三者的に証明することを意味します。
これらの規格は、配線の構造・性能要件・試験項目・合否判定方法までを明確に定めたものであり、適切なツール(認証テスター)を使って、これらの基準に照らした測定を行うことが必要です。
以下に代表的な規格を紹介します。
📘 主な認証規格
| 規格名 | 発行団体 | 主な対象 | 特徴 |
| TIA-568.2-D | TIA(米国) | ツイストペア銅線配線 | 米国主導の配線規格。Cat5e~Cat8に対応。 |
| ISO/IEC 11801シリーズ | ISO/IEC(国際) | 国際的なLAN配線 | Class D(Cat5e相当)〜Class FA(Cat7A)など広範なカバレッジ。 |
| JIS X 5150 | JISC(日本) | 国内配線規格 | ISO/IEC 11801をベースとした日本の国家規格。建築設計で多用。 |
| TIA-1152-A | TIA | テスター精度の規格 | 認証テスターそのものが満たすべき測定精度を規定。 |
✅ 補足:どの規格を使うべきか?
- 海外案件 → ISO/IECまたはTIA
- 日本国内の公共・建築案件 → JIS X 5150
- テスター選定時 → TIA-1152-A適合であることが信頼性の証明に
このように、認証試験とは単なる「ケーブルのテスト」ではなく、「世界共通の品質基準に準拠しているかを証明する」プロセスであり、選ぶテスターや手順も、その目的に応じて適切である必要があります。
【コラム 2】 なぜテスターでコストが変わる?「認証」とメーカー保証の仕組み
記事を読み進める中で、「なぜ認証テスターは高価なのか?」「メーカー保証が不要とはどういう状況か?」と疑問に思う方もいるかもしれません。この違いを理解することは、適切なテスターを選ぶ上で最も重要です。
「メーカー保証」とは? これは、施工業者が提供するものではなく、
ケーブルやコネクタを製造する配線システムメーカーが、正しく施工された配線システム全体に対して提供する20年や25年といった長期の製品性能保証のことです 。
「認証テスター」が必須の理由 この長期保証を取得するためには、施工業者はメーカーから承認された「認証テスター」を使い、規格で定められた厳格な双方向試験(メインユニットとリモートユニットによる試験)に合格したレポートを提出することが絶対条件となります 。この精度の高い双方向測定能力こそが、認証テスターが高価である理由です。
コスト削減の選択肢:「Qualification+」 一方で、顧客との契約でこの「メーカー保証」の取得が求められていないプロジェクトも多く存在します 。そのような場合、施工業者は認証テスターを導入する必要がありません。
そこで登場するのが「Qualification+」テスターです 。このテスターは、高価なリモートユニットの代わりに、小型のパッシブ終端器を用いた片側(シングルエンド)試験という仕組みを採用しています 。これにより、認証テスターの数分の一という価格で、規格に準拠した詳細な性能レポートを提供できるのです 。
つまり、「メーカー保証」という最上位の品質証明が不要な場合に、テスターの選択肢を変えることで、品質を高いレベルで担保しながら機材導入のコストを大幅に抑えることが可能になるのです。。
第2章:ケーブルテスターの選び方と用途
最適なケーブルテスターは、行う作業の目的によって明確に異なります。新規に配線を敷設してメーカー保証を取得するのか、既存のネットワークで発生した「遅い」「繋がらない」といった問題を解決するのか、あるいはオフィスのレイアウト変更に伴う単純な配線確認なのか。ここでは、主要な3つの用途別に、最適なテスターカテゴリと具体的なツール選択について解説します。
1. 用途:新規敷設・システム保証
ケーブル配線の新規敷設や、施主・顧客に対してメーカー発行の長期システム保証を提出する必要がある場合、選択すべきテスターは一択です。
- 選択すべきカテゴリ:認証 (Certification) テスター 業界標準への準拠を厳密に「証明」できる認証テスターが、唯一の選択肢となります。TIAやISO/JISなどの規格に基づいた詳細なテストレポートを作成し、施工品質を客観的に証明することで、メーカーの長期保証を受けることが可能になります 。
- 選択ツール例:
- フルーク・ネットワークス(フルーク社) / DSX CableAnalyzer™ シリーズ
- AEM / TestPro CV100
2. 用途:既存ネットワークのトラブルシューティングと性能評価
「ネットワークに繋がらない」「通信が遅い」「Wi-Fi 6の導入にあたり、既存のケーブルが2.5G/5GBASE-Tに対応できるか知りたい」といった、稼働中のネットワークで発生する問題の切り分けや性能評価には、複数の選択肢が考えられます。
- 選択すべきカテゴリ(1):ケーブル+ネットワーク・テスター 問題の根本原因が、ケーブルなどの物理層にあるのか、スイッチなどのネットワーク層にあるのかを迅速に切り分けるために最も強力なツールです 。まずケーブルの帯域性能を測定し、問題がなければ、接続先のスイッチポートの速度設定、VLAN、PoE給電能力などを診断 。一台で包括的な原因調査が可能です。
- 選択ツール例:
- NetAlly / LinkRunner® 10G , EtherScope® nXG
- AEM / TestPro CV100 , NSA
- フルーク・ネットワークス / LinkIQ™ Duo
- 選択すべきカテゴリ(2):適格性評価+ (Qualification+) テスター メーカー保証は不要だが、「既存のCat 6配線をCat 6Aとして利用できるか」など、規格に準拠した詳細な性能評価を行いたい場合に最適です 。認証テスターよりも大幅にコストを抑えながら、規格の合否判定を含む詳細なレポートを作成し、配線のアップグレード可否を判断できます 。
- 選択ツール例:
- AEM / Network Service Assistant (NSA)
- 選択すべきカテゴリ(3):適格性評価 (Qualification) テスター 「このケーブルは5GBASE-Tをサポートできるか?」といった特定の速度に対する可否を手早く判断したい場合に適しています 。その評価方法には、主に2つのアプローチがあります。
- SNR(信号対雑音比)測定: 実際の通信を模した信号をケーブルに送り、ノイズとの比率を測定することで、リンクの性能を評価します 。(NetAlly、AEMなどが採用)
- 周波数ベース測定: ケーブルがサポートする周波数帯域幅を測定し、IEEE規格に基づいて最大通信速度を判定します 。(フルーク・ネットワークス LinkIQ™などが採用)
これらの機能は、多くの「ケーブル+ネットワーク・テスター」に搭載されています。
3. 用途:移設・増設・変更(MAC)作業と基本的な配線確認
オフィスのレイアウト変更に伴う配線の移設や、単純な導通確認、ケーブルの識別(トーニング)といった日常的な作業には、操作が簡単で迅速に結果が得られるテスターが適しています 。
- 選択すべきカテゴリ:検証 (Verification) テスター ワイヤーマップ、ケーブル長、断線・ショート箇所の特定といった基本的なテストを迅速に行います 。PoEの有無を検出する機能を持つモデルもあり、IP電話やカメラの簡単な接続トラブルにも対応できます 。
- 選択ツール例:
- フルーク・ネットワークス / MicroScanner™ シリーズ
補足: トラブルシューティングも担当するチームの場合、AEM社の NSA のような高機能テスターをMAC作業に活用することも有効です。番号付きのインテリジェントなリモートID(ALI機能)を使用することで、多数のケーブルの識別とCerti-Liteによる性能試験を効率的に行うことができます 。
📘【コラム】迷わず選べる!ケーブルテスターの分類と用途早見ガイド
ケーブルテスターを選ぶ際、よくある悩みが「何を基準に選べばよいのかが分からない」ことです。
そこで本コラムでは、以下の2つの視点から選定をサポートするツールを用意しました:
- ① 分類マトリックス表:
テスターの種類ごとに「主な用途」「対象読者」「代表機種」を一覧で整理。
どのテスターがどのような現場に適しているかを俯瞰できます。 - ② 用途別の早見チャート:
「あなたの目的はどれですか?」という問いかけに対し、選ぶべきテスターカテゴリを導き出します。
特に近年は、PoE対応機器の設置現場や、**OTネットワーク(工場・制御系)**に代表されるような
高度な評価が求められるケースも増えており、従来の分類だけでは判断が難しい状況もあります。
このチャートを活用することで、自分の使用目的とテスターのカテゴリを正しく結びつけ、
「自分に本当に必要な1台」が見えてくるはずです。
① ケーブルテスター分類マトリックス表
| 分類 | 主な用途 | 主な対象読者 | 代表的な機種・シリーズ |
| 認証テスター (Certification) | 規格準拠の「証明」、メーカー保証の取得、新規敷設における品質保証 | 施工業者、システムインテグレーター | フルーク・ネットワークス: DSX CableAnalyzer AEM: TestPro CV100 |
| 適格性評価+テスター(Qualification+) | メーカー保証不要時の詳細な性能評価、既存配線のアップグレード可否判断 | ネットワーク管理者、施工業者、保守担当者 | AEM: Network Service Assistant (NSA) |
| 適格性評価テスター (Qualification) | 特定のネットワーク速度(マルチギガビット等)をサポートできる「能力」の評価 | ネットワーク技術者、ITサポート | (多くは次項のテスターに機能として内包) NetAlly: LinkRunner 10G AEM: TestPro / NSA フルーク・ネットワークス: LinkIQ Duo |
| 検証テスター (Verification) | 基本的な結線・導通確認(ワイヤーマップ)、断線・短絡箇所の特定、MAC作業 | 現場技術者、保守担当者、ITヘルプデスク | フルーク・ネットワークス: MicroScanner™ |
| ケーブル+ ネットワーク・テスター | 物理層とネットワーク層にまたがる統合的な問題切り分け、トラブルシューティング | ネットワーク管理者、ITサポート、保守のリーダー | NetAlly: LinkRunner AT/10G, EtherScope nXG AEM: TestPro / NSA フルーク・ネットワークス: LinkIQ Duo |
| 光ファイバーテスター (OLTS/OTDR) | 光ファイバーの損失測定(Tier 1)、障害箇所の特定と詳細な特性評価(Tier 2) | 光ファイバー施工業者、データセンター管理者 | 各社認証テスターの光測定モジュールなど |
② 用途で選ぶ!ケーブルテスター早見チャート(改訂版)
あなたの主な目的はどれですか?
- A.【新規敷設】配線工事を行い、メーカーの長期保証を取得したい。
- ⇒ 認証 (Certification) テスター が唯一の選択肢です。
- B.【性能評価】既存の配線が、より高速な規格(例: 10GBASE-T)に対応できるか詳しく知りたい。
- メーカー保証は不要だが、規格レベルの詳細レポートが欲しい場合
- ⇒ 適格性評価+ (Qualification+) テスター が最適です。
- 特定の速度で動くか、手早く性能(能力)を確認したい場合
- ⇒ 適格性評価 (Qualification) 機能 を持つテスターが適しています。
- メーカー保証は不要だが、規格レベルの詳細レポートが欲しい場合
- C.【問題解決】「通信が遅い」「ネットワークに繋がらない」といった原因不明のトラブルを迅速に解決したい。
- ⇒ ケーブル+ネットワーク・テスター が最も強力なツールです。
- D.【日常保守】オフィスのレイアウト変更やPC増設などで、ケーブルの結線が正しいか基本的な確認がしたい。
- ⇒ 検証 (Verification) テスター が最も手軽で効率的です。
- E.【光ファイバー】光ファイバーケーブルの敷設やトラブルシューティングを行いたい。
- ⇒ 光ファイバーテスター (OLTS / OTDR) が必要です。
- F.【PoE現場向け】PoE対応のネットワーク機器を設置・点検したい。
- PoE給電の検証や、PD(受電機器)として実際に電力を引き出す「実負荷テスト」を行いたい場合
- ⇒ PoE負荷テスト対応の適格性評価+ / ケーブル+ネットワーク・テスター が最適です。<br>(例: NetAlly TruePower™ 、AEM TestPro/NSA 、フルーク・ネットワークス LinkIQ™ )
- PoE給電の検証や、PD(受電機器)として実際に電力を引き出す「実負荷テスト」を行いたい場合
- G.【工場・OTネットワーク向け】耐ノイズ性能や環境耐性を評価したい。
- モーター等のノイズが多い環境で配線の健全性を確認し、耐ノイズ性能(TCL/TCTL)やMICE指標(特にE: 電磁)を評価したい場合
- ⇒ 産業用イーサネット対応の認証 (Certification) テスター が必要です。<br>(例: AEM TestPro、フルーク・ネットワークス DSXインダストリアル・イーサネット・キット )
- モーター等のノイズが多い環境で配線の健全性を確認し、耐ノイズ性能(TCL/TCTL)やMICE指標(特にE: 電磁)を評価したい場合
第3章:ケーブルテスターの基本的な使用方法
ケーブルテスターの操作は、その目的と機種によって異なりますが、基本的な操作フローには共通点が多くあります。ここでは、最も代表的な2つのカテゴリ、「認証テスター」と「ケーブル+ネットワーク・テスター」の基本的な使用フローを解説します。
A. 認証テスターの基本的な使用フロー
新規敷設された配線の品質を「証明」するための認証テスターは、正確な測定を行うために厳密な手順が求められます。
- プロジェクトとテスト規格の設定 まず、テスター上で顧客名や案件名などのプロジェクトを設定します 。次に、測定対象のケーブル種類(例: Cat 6A U/UTP)と、適用する配線規格(例: JIS X 5150 Class Eᴀ Permanent Link)を正確に選択します 。この設定は測定の合否を判定する基準となるため、極めて重要です 。
- 測定器の接続 測定対象となる配線(例:パッチパネルと情報コンセント間)の両端に、テスターの本体(メインユニット)と遠端機(リモートユニット)を接続します 。パーマネント・リンクを測定する場合は、プラグ端子を持つ専用のアダプターを使用します 。
補足: AEM社のTestPro CV100のように、キットに含まれる2台のテスターが両方ともメインユニットとして機能するモデルもあります 。この場合、どちらの端からでもテストを開始できるため、作業効率が向上します 。
- テストの実行 「TEST」ボタンを押すと、選択した規格に基づき、NEXTやリターンロスなど多数のパラメータの測定が自動で実行されます 。Cat 6Aのテストであれば、通常6秒から10秒程度で完了します 。
- 結果の確認と保存 画面に総合判定として「合格」または「不合格」が表示されます 。不合格の場合は、どのパラメータが規格値を満たさなかったか、また高度な診断機能により障害がケーブルのどの位置で発生しているかを確認できます 。測定結果は、ケーブルID(例: A-01)などを付けて本体に保存します 。
- レポートの作成 現場での測定完了後、テスター内のデータをPCに転送します 。**フルーク・ネットワークス(フルーク社)**の「LinkWare™ PC」やNetAlly社の「Link-Live™」、そしてAEM社の「TestDataPro™」といった管理ソフトウェアを使用し、顧客提出用の詳細な試験成績書を作成します 。
B. ケーブル+ネットワーク・テスターの基本的な使用フロー
現場での迅速な問題切り分けを目的とするケーブル+ネットワーク・テスターは、ワンボタンで多くの情報を得られる点が特徴です。
- プロファイルの選択または作成 事前に測定したい内容を「プロファイル」として設定しておくことができます 。例えば、「経理部フロア用プロファイル」として、VLAN IDや接続確認したいサーバーのIPアドレスを登録しておく、といった使い方が可能です 。
- 測定器の接続とオートテストの実行 調査したいケーブルやウォールジャックにテスターを接続し、「AutoTest(オートテスト)」ボタンを押すだけで、事前に設定されたプロファイルに基づいた一連のテストが自動的に実行されます 。
- 結果の統合的な確認 テスト結果は1つの画面に集約して表示され、以下の情報を一度に確認し、問題の切り分けを行います 。
- ケーブルの検証: ワイヤーマップ、ケーブル長、サポート可能な最大帯域(例: 5GBASE-TまでOK)など 。
- スイッチの情報: 接続されているスイッチ名、ポート番号、ポートの通信速度(例: 10G)、VLAN IDなど 。
- PoEの検証: スイッチが供給可能なPoEクラスと、実負荷をかけた際の電力(W)と電圧(V) 。
- ネットワーク接続性: DHCPサーバーからのIPアドレス取得、DNSサーバーでの名前解決、ゲートウェイや指定したターゲットへの疎通確認(ピングテスト)の結果 。
- 結果のアップロードと共有 測定結果は、NetAlly社の「Link-Live™」やフルーク・ネットワークスの「LinkWare™ Live」、そしてAEM社の「TestDataPro™ Cloud」といったクラウドサービスに自動的にアップロードできます 。これにより、現場作業員と遠隔地の管理者がリアルタイムに情報を共有し、迅速な問題解決に繋げることができます 。
第4章:テスト結果の活用方法とトラブルシューティング
ケーブルテスターの操作は、その目的と機種によって異なりますが、基本的な操作フローには共通点が多くあります。ここでは、最も代表的な2つのカテゴリ、「認証テスター」と「ケーブル+ネットワーク・テスター」の基本的な使用フローを解説します。
A. 認証テスターの基本的な使用フロー
新規敷設された配線の品質を「証明」するための認証テスターは、正確な測定を行うために厳密な手順が求められます。
- プロジェクトとテスト規格の設定 まず、テスター上で顧客名や案件名などのプロジェクトを設定します 。次に、測定対象のケーブル種類(例: Cat 6A U/UTP)と、適用する配線規格(例: JIS X 5150 Class Eᴀ Permanent Link)を正確に選択します 。この設定は測定の合否を判定する基準となるため、極めて重要です 。
- 測定器の接続 測定対象となる配線(例:パッチパネルと情報コンセント間)の両端に、テスターの本体(メインユニット)と遠端機(リモートユニット)を接続します 。パーマネント・リンクを測定する場合は、プラグ端子を持つ専用のアダプターを使用します 。
補足: AEM社のTestPro CV100のように、キットに含まれる2台のテスターが両方ともメインユニットとして機能するモデルもあります 。この場合、どちらの端からでもテストを開始できるため、作業効率が向上します 。
- テストの実行 「TEST」ボタンを押すと、選択した規格に基づき、NEXTやリターンロスなど多数のパラメータの測定が自動で実行されます 。Cat 6Aのテストであれば、通常6秒から10秒程度で完了します 。
- 結果の確認と保存 画面に総合判定として「合格」または「不合格」が表示されます 。不合格の場合は、どのパラメータが規格値を満たさなかったか、また高度な診断機能により障害がケーブルのどの位置で発生しているかを確認できます 。測定結果は、ケーブルID(例: A-01)などを付けて本体に保存します 。
- レポートの作成 現場での測定完了後、テスター内のデータをPCに転送します 。**フルーク・ネットワークス(フルーク社)**の「LinkWare™ PC」やNetAlly社の「Link-Live™」、そしてAEM社の「TestDataPro™」といった管理ソフトウェアを使用し、顧客提出用の詳細な試験成績書を作成します 。
B. ケーブル+ネットワーク・テスターの基本的な使用フロー
現場での迅速な問題切り分けを目的とするケーブル+ネットワーク・テスターは、ワンボタンで多くの情報を得られる点が特徴です。
- プロファイルの選択または作成 事前に測定したい内容を「プロファイル」として設定しておくことができます 。例えば、「経理部フロア用プロファイル」として、VLAN IDや接続確認したいサーバーのIPアドレスを登録しておく、といった使い方が可能です 。
- 測定器の接続とオートテストの実行 調査したいケーブルやウォールジャックにテスターを接続し、「AutoTest(オートテスト)」ボタンを押すだけで、事前に設定されたプロファイルに基づいた一連のテストが自動的に実行されます 。
- 結果の統合的な確認 テスト結果は1つの画面に集約して表示され、以下の情報を一度に確認し、問題の切り分けを行います 。
- ケーブルの検証: ワイヤーマップ、ケーブル長、サポート可能な最大帯域(例: 5GBASE-TまでOK)など 。
- スイッチの情報: 接続されているスイッチ名、ポート番号、ポートの通信速度(例: 10G)、VLAN IDなど 。
- PoEの検証: スイッチが供給可能なPoEクラスと、実負荷をかけた際の電力(W)と電圧(V) 。
- ネットワーク接続性: DHCPサーバーからのIPアドレス取得、DNSサーバーでの名前解決、ゲートウェイや指定したターゲットへの疎通確認(ピングテスト)の結果 。
- 結果のアップロードと共有 測定結果は、NetAlly社の「Link-Live™」やフルーク・ネットワークスの「LinkWare™ Live」、そしてAEM社の「TestDataPro™ Cloud」といったクラウドサービスに自動的にアップロードできます 。これにより、現場作業員と遠隔地の管理者がリアルタイムに情報を共有し、迅速な問題解決に繋げることができます 。
第5章:ケーブルテストの応用技術と高機能テストツールの活用
基本的なテストに加え、最新の高機能テスターはネットワークの安定稼働を支えるための多様な応用技術を備えています。ここでは、その代表的なものを紹介します。
PoE (Power over Ethernet) の負荷試験とは?
背景: Wi-Fiアクセスポイント、IPカメラ、センサー、スマート照明など、PoEで稼働するデバイスは90W(802.3bt)まで高出力化しており、電力供給の安定性が不可欠になっています。
応用技術: 最新のテスターは、単に電圧を検知するだけでなく、実際にPSE(スイッチ)とネゴシエーションを行い、PD(受電機器)として負荷をかける実負荷試験が可能です。これにより、ケーブル配線を含めたシステム全体が、本当に必要な電力を安定して供給できるかを確認します。各社のアプローチは以下の通りです。
- AEM: PDをエミュレートし、最大90Wまでの実電力を要求して負荷をかけ、電圧降下などを測定します。 また、稼働中のリンクにテスターをインライン接続し、デバイスが実際に消費している電力をリアルタイムで監視する独自の機能も提供しています。
- NetAlly: TruePower™負荷テストにより、ネゴシエーションしたクラスの最大電力までを実際にケーブルに流し、電圧降下を測定することで、スイッチの給電能力と配線の健全性を同時に検証します。
- フルーク・ネットワークス: LinkIQ™は実負荷試験に対応しています。 また認証テスターのDSXシリーズは、ケーブルの直流抵抗のアンバランス(DC Resistance Unbalance)を精密に測定します。 この値が大きいと、高出力PoE環境下で電力損失や発熱を引き起こし、性能劣化に繋がる潜在的な問題を特定できます。
耐ノイズ性能の評価 (TCL/TCTL)とは?
背景: 10GBASE-T以上の高速通信や、モーターやインバーターが多数稼働する工場などの産業環境(OT)では、外部ノイズへの耐性が極めて重要になります。
応用技術: 認証テスターは、横方向変換損失 (TCL) や横方向変換伝達損失 (TCTL) といった平衡度(バランス)に関するパラメータを測定します。 これは、ツイストペアケーブルがいかに均一に、対称的に作られているかを示す指標です。この値が優れている(平衡度が高い)ケーブルほど、外部からの電磁ノイズを打ち消す能力が高く、ノイズの多い環境でも安定した通信を維持できます。
MICE (産業環境) の評価とは?
背景: 工場や屋外など、過酷な環境では配線が物理的・化学的・電磁的なストレスにさらされます。
応用技術: 国際規格では、これらの環境ストレス耐性をMICE (Mechanical/Ingress/Climatic/Electromagnetic) という指標で定義しています。テスターは、この中のE(電磁干渉)を評価する上で重要な役割を果たします。前述のTCL/TCTL測定や、エイリアンクロストーク測定により、その環境で求められる電磁ノイズ耐性をケーブルが満たしているかを確認し、安定稼働の判断材料とします。
クラウド連携によるテスト管理とは?
応用技術: 最新のテスターは、クラウドサービスとの連携が標準となっています。これにより、プロジェクトマネージャーはオフィスにいながら複数の現場のテスターを一元的に設定・管理できます。現場の作業者はテストを実行するだけで結果が自動的にアップロードされ、リアルタイムでの進捗管理、レポート作成の自動化、設定ミスなどのヒューマンエラー削減が可能になります。
- 代表的なクラウドサービス:
- フルーク・ネットワークス / LinkWare™ Live
- NetAlly / Link-Live™
- AEM / TestDataPro™ Cloud
第6章:ケーブル配線の設置と最適化に向けたベストプラクティス
テストで「合格」するだけでなく、長期的に安定した性能を維持するためには、規格に準拠した正しい設置作業が不可欠です。不適切な施工は、テスターによって明確に「不合格」として検出されます。
- 規格の遵守: TIA-568シリーズ(北米)やISO/IEC 11801(国際)といった配線規格の要件を必ず守ります。
- 曲げ半径の維持: ケーブルを曲げる際は、メーカーが指定する最小曲げ半径(一般的にUTPケーブルで外径の4倍)を絶対に下回らないようにします。過度な曲げはケーブル内部のインピーダンスを変化させ、リターンロスの悪化に直結します。
- 引張り張力の管理: ケーブルの敷設時に過度な力(一般的に110N / 25lbf以下)で引っ張らないようにします。ケーブルが引き伸ばされると、ペアの撚りピッチが変化し、NEXTやリターンロスなど、全ての電気的特性が永久に劣化する原因となります。
- ペアの「撚り戻し」を最小限に: コネクタを成端する際、ペアの撚りを戻す長さは規格で定められた値(例:Cat 6Aで13mm)以内を厳守します。撚り戻しが大きいと、ペア間の信号の漏れが大きくなり、NEXT(近端漏話)の主要な不合格原因となります。
- 電力線からの分離: EMI(電磁干渉)を防ぐため、電源ケーブルとデータケーブルは規定された距離を保って敷設します。これを怠ると、外部ノイズがケーブルに侵入し、SNR(信号対雑音比)の低下や、平衡度の試験(TCL/TCTL)での不合格に繋がります。
- 適切なケーブル支持と結束: ケーブルを結束バンドで強く締め付けすぎると、ケーブルが圧迫されて内部構造が変形し、インピーダンスが変化します。これはリターンロスの悪化を招きます。ケーブルを束ねる際は、幅広の面ファスナー(ベルクロ)の使用が推奨されます。
- ラベリングの徹底: TIA-606などのラベリング規格に準拠した、論理的で一貫性のあるラベリングを実施します。これにより、テスト結果の管理や、将来の保守・管理作業の効率が劇的に向上します。
第7章:ケーブルテスターを用いた長期保守と予防保守の戦略
ケーブル配線は、一度敷設すれば終わりではありません。時間経過や環境の変化、人的な作業によって性能が劣化する可能性があります。問題が発生してから対応する「事後保守」から、問題の発生を未然に防ぐ「予防保守」へ転換することが、ネットワークの可用性を高める鍵となります。
1. ベースラインの確立(初期状態の記録)
新規敷設時に実施した認証テストの結果は、その配線システムが最も健全な状態を示す「ベースライン」となります 。特に光ファイバーにおいては、OTDRのトレース波形も重要なベースライン情報です 。これらの詳細な初期データをフルーク・ネットワークス(フルーク社)の「LinkWare™ Live」、NetAlly社の「Link-Live™」、あるいはAEM社の「TestDataPro™ Cloud」といった管理プラットフォームに保存しておくことが、長期保守の第一歩です 。
2. MACs(移設・増設・変更)作業後の再テスト
ネットワークの構成変更(MACs: Moves, Adds, and Changes)は、性能劣化の大きな要因です 。ケーブルの抜き差しや再配線の後には、必ずテストを実施し、作業によって新たな問題が発生していないかを確認するべきです 。
- 簡易検証・性能確認: NetAlly社のLinkRunner®シリーズ、
フルーク・ネットワークスのLinkIQ™ Duo、あるいはAEM社のNSAといったケーブル+ネットワーク・テスターや適格性評価+テスターで、接続性、PoE、スイッチポートの状態を迅速に確認します 。
- 再認証: 基幹となる重要なリンクを変更した場合は、認証テスターによる再テストで品質を保証します 。
3. 定期的な性能監視と予防保守
重要なリンクについては、定期的な再テストを行うことで、完全な障害が発生する前に性能の劣化傾向を捉えることができます 。
- 自動監視: NetAlly社のLinkRunner® 10Gなどが持つ「繰り返し自動テスト(Periodic AutoTest)」機能を使えば、指定した間隔(例: 1時間ごと)でテストを自動実行し、結果をクラウドにアップロードして性能の変動を監視できます 。
- トレンド分析: クラウドに蓄積された過去のテスト結果(ベースライン)と現在の結果を比較することで、マージンの減少傾向などを分析し、計画的なメンテナンス(コネクタの再成端やケーブル交換)に繋げます 。
- 光ファイバーの保守: 定期的にファイバースコープで端面を検査・清掃することは、光通信障害の最も一般的な原因である「汚れ」を防ぐための、最も基本的かつ重要な予防保守です 。また、OTDRで現在のトレース波形とベースラインを比較すれば、敷設後に追加された曲げ(マクロベンド)や接続点の劣化などを正確に発見できます 。
第8章:ケーブルテストにおける最新技術と今後の展望
ネットワーク技術の進化は、ケーブルテストに新たな役割と課題をもたらしています。ここでは、現代のネットワーク環境を特徴づける最新技術と、それに対応するためにテスターに求められる機能について解説します。
1. マルチギガビットイーサネット(2.5G/5G/10GBASE-T)の普及
背景: Wi-Fi 6/6E対応のアクセスポイントや高性能なネットワーク機器の性能を最大限に引き出すため、既存のCat 5e/Cat 6配線上で2.5G/5GBASE-Tといった高速通信を行う需要が急増しています。
テストの役割: これに伴い、「この既設ケーブルは5Gbpsに対応できるか?」を評価する適格性評価テストの重要性が高まっています。NetAlly社のLinkRunner® 10GやAEM社のTestPro/NSAのようなテスターは、ケーブルのSNR(信号対雑音比)を測定し、マルチギガビット伝送の可否を高い精度で判断します。また、**フルーク・ネットワークス(フルーク社)**のLinkIQ™ Duoは周波数ベースの測定により、サポート可能な最大通信速度を判定します。
2. 新しい配線形態(MPTL)への対応
背景: 従来、ケーブルの端末側は必ず情報コンセント(ジャック)で終端されていました。しかし近年、監視カメラやWi-Fiアクセスポイントのように、一度設置すると動かさない機器へは、ケーブルの先端に直接プラグを取り付けて接続する**MPTL(Modular Plug Terminated Link)**という配線形態がTIAやISO/JIS規格で正式に認められました。
テストの役割: このMPTLを正しく認証試験するには、先端のプラグの品質を測定範囲に含める必要があります。そのため、各社の認証テスター(例:フルーク・ネットワークスのDSX CableAnalyzer™シリーズ、AEM社のTestPro CV100)で利用可能な、専用のパッチコード・アダプターが必須となります。
3. シングル・ペア・イーサネット(SPE)の台頭
背景: ビルオートメーションや工場の生産ライン(OT)といった産業分野では、長距離伝送とPoE(PoDL)を1対(2芯)のケーブルで実現する**シングル・ペア・イーサネット(SPE)**の導入が始まっています。
テストの役割: これは従来の4対(8芯)ケーブルとは全く異なる技術であり、IEEE 802.3cg (10BASE-T1L) やTIA 5071 (フィールドテスト) といった新しい規格に準拠した測定が求められます。かつては「未来の技術」でしたが、現在ではすでに対応テスターが登場しています。例えば、AEM社のTestPro CV100は、専用アダプターを使用することで、これらの新しいSPE規格に準拠した認証試験を現場で行うことが可能です。
4. 光ファイバーの高速・高密度化
背景: データセンターでは40G/100Gbps以上の通信が標準となり、複数のファイバーを1つのコネクタにまとめたMPO/MTPコネクタが主流となっています。12芯や24芯を一度に接続できるため高密度化に貢献しますが、テストにおいては新たな管理課題が生まれています。
テストの役割(測定): 「多数の芯線の極性は全て正しいか」「全芯線の損失は規定値以内か」といった、従来の単芯コネクタにはない新しい管理が求められます。これに対し、各社は専用のソリューションを提供しています。例えば、フルーク・ネットワークスのMultiFiber™ Proは、MPOコネクタに直接接続し、一度のテストで全ファイバーの損失と極性を測定できる専用テスターです 。これにより、従来のテスターで1本ずつ測定する場合と比較して、作業時間を大幅に削減することが可能です 。
テストの役割(検査と清掃): 高速・高密度化に伴い、コネクター端面の汚染が性能に与える影響はより深刻になっています。調査によれば、端面の汚れは光ファイバーリンク障害の最大の原因です 。このため、テストの前には必ずファイバースコープ(ビデオ顕微鏡)で端面を検査し、必要に応じて清掃することが不可欠です。
- ファイバースコープによる検査: 光ファイバーのコア径はμm単位と極めて小さく、肉眼で汚染を確認することは不可能です 。ファイバースコープを用いることで、初めて端面の状態を正確に把握できます。
- 国際規格IEC 61300-3-35: 検査における作業者の主観を排除し、一貫性のある評価を可能にするため、国際規格IEC 61300-3-35が策定されています 。この規格に基づき、フルーク・ネットワークスのFI-7000 FiberInspector™ Proのような最新のスコープは、端面の汚染や傷をアルゴリズムで解析し、自動で合否判定を行います 。
- 検査と清掃のワークフロー: 最も重要なベストプラクティスは、「まず検査し、汚れていれば清掃し、そして再度検査する」というワークフローの徹底です。これに対し、従来のワイプやスティックに加え、Sticklers™社のPro360°™ Touchless Cleanerのような、端面に触れずに溶剤と空気を噴射して汚染と静電気を除去する革新的なツールも登場しており 、高速・高密度ネットワークの信頼性確保に貢献しています。
第9章:ケーブルテスト基礎知識ガイドのまとめと今後の活用
本ガイドで解説してきた知識は、現代社会を支える情報インフラの信頼性を確保するための基盤です。最後に、これからの実務に活かすための重要な心構えと、本ガイドで得た知識の活用法をまとめます。
1. テストは「投資」である
適切なケーブルテストは、単なる作業コストではありません。将来発生しうるネットワーク障害によるビジネス機会の損失や信用の低下を防ぎ、インフラの長寿命化と将来の技術への拡張性を担保するための重要な投資です。初期段階での正確なテストが、長期的な運用コストを大きく削減します。
2. 適材適所のツール選択
本ガイドで解説した通り、テスターの選択は「何を知りたいか」という目的意識が全てです。それぞれのカテゴリの役割を正しく理解し、作業目的に応じて最適なツールを選択することが、業務の効率と品質を最大化します。
- 「認証」による、メーカー保証に必須の厳格な品質証明。
- 「適格性評価+」による、コストを抑えた規格準拠レベルの性能評価。
- 「ケーブル+ネットワーク・テスト」による、物理層からネットワーク層にまたがる迅速な問題切り分け。
- 「検証」による、日常的なMAC作業での基本的な導通確認。
3. 「合格」の先にあるデータ活用
テスト結果は、単にファイルとして保存するだけでなく、フルーク・ネットワークス(フルーク社)の「LinkWare™ Live」、AEM社の「TestDataPro™ Cloud」、NetAlly社の「Link-Live™」といったクラウドサービスを活用して一元管理することで、組織の貴重な資産となります。敷設時のベースラインデータとの比較は、障害の予兆検知や、問題発生時の迅速な原因究明に大きく貢献します。
4. 未来へ向けた継続的な学習
MPTLやSPE、Wi-Fi 6/6Eといった新しい技術は、配線のあり方そのものを変えていきます。本ガイドの第8章で見たように、これらの新しい規格に対応するテスト技術はすでに確立されており、それを継続的に学び、実践していくことが、ネットワークのプロフェッショナルとして信頼を勝ち得るための鍵となるでしょう。
Cabling Cert Techより、ネットワークの未来を担う皆様へ
本ガイドを最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
私たちが日々利用するインターネット、クラウドサービス、そしてIoTデバイス。これらの先端技術はすべて、一本一本のケーブル配線という物理的な基盤の上に成り立っています。そして、その信頼性を支えているのが、皆様のようなプロフェッショナルの技術と、本ガイドで解説してきた「ケーブルテスト」という確かなプロセスです。
技術は日進月歩で進化し、テストの対象や手法も常に変化していきます。しかし、その根底にある「品質を証明し、インフラの価値を最大化する」という目的は、決して変わることはありません。
本ガイドが、皆様の知識を整理し、日々の業務に新たな視点をもたらす一助となれば、これに勝る喜びはありません。Cabling Cert Techは、これからも皆様と共に、信頼性の高い情報インフラの未来を築くための、価値ある情報を提供し続けてまいります。




